…―…


「ねぇ、結局私のお願い、最後の一つを残して全部叶えてくれたね。ありがとう」
「詩のお姉さんに会うのは偶然だったし、想定してなかったけどこれも神様からのプレゼントなのかもしれない」
「そうだね。私もお姉ちゃんに会いたかったから」

 その日の夜、既にベッドに入った俺と詩は天井を見ながら会話をする。
残された時間があと僅かだと思うと寝る時間すら勿体ないと思うようになった。
 少しでも詩との記憶を脳裏に焼き付けておきたいと思う。
でもそれをしようとすればするほど、彼女がいなくなるという現実を突きつけられてしまう。
 今日、詩の姉が放った言葉はどれも俺の胸を締め付ける内容だった。
俺が俊介に抱く感情と全く一緒だったからだ。だから分かるのだ。詩の姉の苦しみが。

「流星祭楽しんでね。私も前夜祭の行灯担いでみんなで楽しんでいるの見たい」
「どこを通るかは事前にわかっているから詩も一緒に楽しもう」
「…うん」
 とはいえ、夕方から始まるそれはかなりの人が集まる。
詩一人で俺の目の届かない場所で誰かにぶつかったら困る。でも、詩だって前夜祭の準備を手伝った一人なのだから本当は参加させてやりたい。

「遠くから見てるね。暗いと人にぶつかると困るから…。ねぇ、蒼君」
「どうした?」
「最後の願い、私の消える日にしてほしい」

 部屋に響く詩の言葉に俺は息を呑む。
自然に布団を強く握っていた。冗談ではないことは彼女の口調で理解していた。

「分かった」
「これで全部叶うね」
 うん、というと俺と詩は目を閉じて眠りについた。