「嘘よ、ちゃんとお葬式もしたし私だってさすがに出席した。それなのにどうしてここに詩が?夢でも見ているの?」
「夢じゃないよ、お姉ちゃん…ごめんね、私どういうわけか死んだあと一か月の”期間”をプレゼントされたみたいなの。幽霊でもなくてちゃんと人間としてみんなの目に、記憶に残る存在として。でもそれには…条件があって。絶対に人に触れてはいけないの。誰かに触れてしまうとその時点で消えてしまうの。本当は真っ先にお母さんとお父さん、それからお姉ちゃんに会いに行きたかった。でもね、そんなことしちゃったらみんな二度も別れを経験しなきゃいけない。そんなのきっと耐えられないよね。だから…蒼君に頼んで色々協力してもらっていたの」

 詩は笑いながら泣いていた。
詩の姉は詩が亡くなっても決して涙を流さなかったと言っていた。
 それほど詩とは上手くいっていなかったのだと思った。でも、今俺たちの目の前にいる詩の姉は必死になってこの状況を理解しようとしていて、それでいて必死になって詩が生きていてほしいと願っていると思った。

「詩は生きているってこと?今はちゃんとこの世にいるっていうこと?詩は…っ、これは夢じゃいのよね」

 うん、と頷くと詩の姉は全身を脱力させしゃがみ込んだ。
そして声を上げて泣いた。成人した女性が嗚咽を洩らしながら泣いていた。
 俺たちの脇を通り過ぎる自転車を漕いだ男性が不審そうに俺たちを一瞥していくがそんなことはどうだってよかった。

「ごめんね、お姉ちゃん…私の手紙受け取ってくれた?」
 詩の姉はぐちゃぐちゃに泣き腫らした顔を上げて大きく頷いた。

「読んだ。信じられなかった。詩は私のこと最後まで姉としてみてくれていたのに私は…っ、本当にごめんなさい」
「どうして謝るの?お姉ちゃんは悪くないよ。両親が離婚して新しい家族が増えるって普通は直ぐには受け入れられないよね。ごめんね、」
「私、詩ともっと仲良くすればよかったって後悔しか残らなかった。詩の病気が進行していたことも知っていたのに、最後まで私は…っ」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私はお姉ちゃんのこと大好きだったよ。今でも大好きだよ、でもちゃんと伝えられてなかったなって思って。…本当にありがとう」

 詩の姉の複雑な感情は手に取るようにわかる。詩と常に一緒にいたこの一か月間俺は自分の弟を詩に重ねていた。
詩の姉は涙で濡らした頬を手で拭い立ち上がった。