「もしかして…詩の友達かしら」
「そ、そうです」
「あらぁ、ありがとうね。まだ通夜まで時間があるの。それにしても…あの子友達なんてほとんどいなかったはずなのに」
首を傾げる彼女の母親の目は真っ赤に腫れていた。痛々しいそれを直視することが出来ない。同時に、本当に先ほどまで喋っていた彼女が死んでいるという事実を突きつけられ混乱していた。
「まだ始めってはないけれど先に詩に会っていきます?」
「いえ、すみません。まだ心の整理が出来ていないので失礼します」
「ええ…ちょっと、」
女性の声を背に俺の足は勝手に走り出していた。
どういうことだ、一体何故彼女は…―。
はぁはぁと肩を大きく揺らして既に彼女の母親が見えなくなってから足を止める。
“詩”と呼ばれていた彼女は本当に既に死んでいて、どういうわけか一か月だけこの世に存在することが出来る。そして俺だけではなく彼女の存在は誰にでも確認することが可能だが触れると消えてしまうという。
「何なんだよ…っ」
額に手を当て、自身を落ち着かせようと深呼吸をしたとき「本当だったでしょう?」と声がした。
振り返ると彼女が立っていた。天真爛漫という言葉が良く似合う太陽のような笑顔を浮かべている。だがどこかその顔は寂しそうだった。
「君の名前…詩っていうの?」
「うん、そう。自己紹介がまだだったね、私の名前は鈴村詩。高校二年生だった。もう死んじゃったんだけどね」
ぺろっと舌を出す彼女に悲壮感は感じない。
もう現実を受け入れているのだろうか、それとも…―。