親の再婚のせいで家にいる時間が徐々に減っていたあの頃、それでも俊介の見舞いくらいはたまに行っていた。
それはある意味で親に対して“いい兄”でいることのアピールになっていた。俊介からの兄ちゃんという呼び声を聞くと本当はお前の兄なんかじゃないと心の中で思っているのにいざ会うと俊介は純粋な目で俺を見上げ、心底嬉しそうにする。
 そのジレンマの中俺は普通の高校生であろうとした。
でも、ある日。

『兄ちゃん、今日遊んでくれるんだよね』
『うん、わかった』
 ちょうど退院期間中の俊介と家でゲームをするという約束をしていた。俺は俊介のことは大して好きじゃないし本当の弟だとも思えなかった。
それでも、何度も遊んでほしいと懇願する弟をおざなりには出来なかった。

『なぁ、今日ゲーセン行ってから帰ろうぜ』
『そうだ、お前も行く?』
『ごめん。用事がある』
 そんな日に限って俺を誘ってくる同じクラスメイトがいた。たまに遊ぶ程度の友人なのかただのクラスメイトなのかはわからないような男子たちだったが、俺は即答していた。
 どうしてもあの俊介の顔が蘇ってきて断るという選択が出来なかった。
でも当然のように俺が来るだろうと思っていたクラスメイトらは明らかに不機嫌になり俺を責め立てた。

『なんでだよ、せっかく誘ってんのに』
『弟と遊ぶ約束してるんだよ』
『弟?』
『体が弱くてよく入退院繰り返してる。今は家に帰ってきているから』

 ここまで話せば納得してもらえると思った。でも、違った。
そいつらは大げさに手を叩いて笑い、馬鹿にしてきた。俺だけが馬鹿にされるのならば仕方ない。でも違う、そいつらは俊介のことまで馬鹿にしてきた。
『別によくねぇか?なんで入退院なんか繰り返してんの?命に関わることじゃないんだからさぁ。それともあれか?ブラコンか?』
 プツンと何かが弾ける音がした。その音が確かに聞こえた瞬間、俺は相手の胸ぐらを掴みかかり大声を出していた。騒然となるクラスからの視線や怒号など何も聞こえない。
 俺はそいつの胸ぐらを掴み、そのまま勢いよく相手をフローリングにたたきつけた。
その騒動はもちろん一日で学校中に広がった。それだけで済めばよかったのだが、相手の親がPTAの会長をやっており更に問題が大きくなった。
 俺の母親は学校へ来て何度も謝罪をした。相手は怪我はしていなかったようだが、もしも机やいすにぶつかって何かあったらどうするのだと親は相当に責められていた。
俺が悪いことはわかっていた。でも、どうしても我慢できなかった。
 それから俺は自業自得だがクラスから孤立した。その噂は他のクラスにももちろん広がっていたからクラス替えのある二年になってもこのままなのだ。
全てを話し終えると詩を見た。