「ねぇ、笹森君…暇?」
そこに立っていたのはクラスの委員長である橋本陽菜だった。鎖骨あたりで綺麗に整えられた黒髪に黒縁眼鏡をして如何にも委員長という見た目をしているがクラスでは頭の良さと発言力でいつも中心にいる。あまり顔をまじまじと見たことはなかったから、意外と可愛らしい見た目をしていることを知る。
「暇だけど」
「良かった。ならちょっと買い出しに行ってほしいんだ。いい?」
「分かった」
俺が誰の手伝いもしていないことを知っていたのだろう、橋本さんは俺にメモと茶封筒を渡す。ここに学際用のお金が入っているらしい。
「笹森君裁縫って得意?」
「…裁縫?いや、やったことない」
「そうだよね」
橋本さんと話したことはほぼなかったのだが、彼女は俺を避けるということはしないようだった。四月から同じクラスになったとはいえ一年生の頃の出来事は知らないわけがない。少なくとも多少は耳にしているはずだ。こんな狭い世界で知らないのは不自然だ。
それなのに他のクラスメイトに話しかけるのと同じように喋りかけてくる。
一瞬たじろいでしまったがよく考えると彼女はおそらく“委員長”として今人手が足りないという問題を抱えており暇な俺に声を掛けた行為は至極当然だろう。
特に意味はない。
困ったように息を吐く橋本さんに俺は自然と「なんで?」と訊いた。
「実はうちのクラスに裁縫得意な子あんまりいなくて」
「でもさっき聞いたけど夏休み期間にそれなりに準備進んでるんじゃないの?」
「うん、進んでないわけじゃないよ。女子の分は何とかって感じ。でも裁縫中心でやってくれていた久隆さんが腱鞘炎になっちゃったの。私も手伝ってはいるんだけど、委員長の仕事もあるし、流星祭は前夜祭がメインじゃないでしょ?うちのクラスはりんご飴も作って売るからその準備もある。男子には行灯作ってもらっているから人手を借りるのはなぁって」
と、ここで俺はふと思いついた。
『学校に行きたい!』
詩のあのキラキラした顔が浮かぶ。だが同時に首を横に振り、それは流石にダメだと自分を説得した。事情を説明すれば学際期間だけ詩をここへ連れてくることは可能かもしれないけどリスクが高い。連れてきてあげたい気持ちもあったが、何かあった時の考えれば簡単に結論付けることは出来ない。
でも、と揺れる心のままもう一人の俺が現れる。
そこに立っていたのはクラスの委員長である橋本陽菜だった。鎖骨あたりで綺麗に整えられた黒髪に黒縁眼鏡をして如何にも委員長という見た目をしているがクラスでは頭の良さと発言力でいつも中心にいる。あまり顔をまじまじと見たことはなかったから、意外と可愛らしい見た目をしていることを知る。
「暇だけど」
「良かった。ならちょっと買い出しに行ってほしいんだ。いい?」
「分かった」
俺が誰の手伝いもしていないことを知っていたのだろう、橋本さんは俺にメモと茶封筒を渡す。ここに学際用のお金が入っているらしい。
「笹森君裁縫って得意?」
「…裁縫?いや、やったことない」
「そうだよね」
橋本さんと話したことはほぼなかったのだが、彼女は俺を避けるということはしないようだった。四月から同じクラスになったとはいえ一年生の頃の出来事は知らないわけがない。少なくとも多少は耳にしているはずだ。こんな狭い世界で知らないのは不自然だ。
それなのに他のクラスメイトに話しかけるのと同じように喋りかけてくる。
一瞬たじろいでしまったがよく考えると彼女はおそらく“委員長”として今人手が足りないという問題を抱えており暇な俺に声を掛けた行為は至極当然だろう。
特に意味はない。
困ったように息を吐く橋本さんに俺は自然と「なんで?」と訊いた。
「実はうちのクラスに裁縫得意な子あんまりいなくて」
「でもさっき聞いたけど夏休み期間にそれなりに準備進んでるんじゃないの?」
「うん、進んでないわけじゃないよ。女子の分は何とかって感じ。でも裁縫中心でやってくれていた久隆さんが腱鞘炎になっちゃったの。私も手伝ってはいるんだけど、委員長の仕事もあるし、流星祭は前夜祭がメインじゃないでしょ?うちのクラスはりんご飴も作って売るからその準備もある。男子には行灯作ってもらっているから人手を借りるのはなぁって」
と、ここで俺はふと思いついた。
『学校に行きたい!』
詩のあのキラキラした顔が浮かぶ。だが同時に首を横に振り、それは流石にダメだと自分を説得した。事情を説明すれば学際期間だけ詩をここへ連れてくることは可能かもしれないけどリスクが高い。連れてきてあげたい気持ちもあったが、何かあった時の考えれば簡単に結論付けることは出来ない。
でも、と揺れる心のままもう一人の俺が現れる。