夏休みが終わった。
俺以外の学生だって夏休みが終われば憂鬱になるだろうし登校日の朝ほどだるいと感じることはないだろう。だが、俺は学校へ行きたくないという感情よりも夏休みの終わりが“詩との別れ”が目の前に迫っているということを意味していることに首を絞められているような苦しさでどうにかなりそうだった。
 
 詩はいつも通り飄飄としていて自分が本当の意味でこの世を去ってしまうことにそこまで悲しんでいないように見える。時折悲しそうに笑う時があるがそれだけだ。
ちゃんとご飯を食べるように、ちゃんと勉強するように、など母親のようなことを口にする回数は増えたけど。

「今日から学校だね、いってらっしゃい~」
「うん、母親今日日中は家にいるらしいから気を付けて」
「分かってる、わかってる!」

 右手でピースを作り、俺の前にぐっと近づける。思わず触れそうになる距離に俺は顔を顰める。学校鞄を肩に掛け、「行ってきます」ともう一度言った。

 夏休み期間の講習の前半はほぼ参加しなかったが、後半は詩に促され嫌々出席した結果今年の夏休み期間の課題は講習の隙間時間を使ってほぼ終わらせることが出来たから前日に睡眠不足になることはなかった。
 鉛でもついているのではと錯覚するほど重い足を引きずるようにして進む。学校の校門あたりでクラスメイトが俺の脇を友人と喋りながら通り過ぎていくのを横目でチラッと見る。
 彼らが視界に入る度に黒い感情がどす黒い感情が胸の中をせわしなく動き出す。思い出したくもない一年前のことを思い出して勝手に世の中にうんざりする。でも、詩の顔を思い浮かべると嫌な感情が少しずつ霧消していく。

 昇降口を抜けて騒がしい廊下を歩き、気づくとクラスのドアの前に立っていた。
ドアは半分開いていて俺は無言で自分の席に向かった。キャッキャッと友達とおしゃべりをする女子たちの声が耳に入ると詩もこの中にいたらきっと中心で誰とも壁をつくらず楽しい学生生活を送るだろうと思った。

「学際準備、今日から本格的に始まるね。楽しみ!」
「私たちはそれなりに準備してるから大丈夫だけど男子は?」
「それなら夏休みの間にある程度やっていたみたいだよ。行灯は今日から本格的にやるって」

 俺の前の席に座る女子たちがそう話しているのを訊いて初めて自分のクラスの流星祭準備の進捗状況を知った。間接的に知ることには慣れているが多少心に穴が開くような感覚がある。夏休み期間もクラスメイトは流星祭の準備で忙しかったようだ。完全に学際ムードだった。
 ホームルームが始まり、午前中だけ課題の提出や授業を行うと午後からは全ての時間を使い流星祭に向けた準備をする。明日からは全ての時間を費やして流星祭の準備をするのだから驚きだ。この学際がしたくて学校へ入学してくる生徒が多いことも頷ける。

 一致団結してクラスみんなで行灯作成、衣装作成をしてお祭りをするのだから。
でも、俺はその中には入っていない。進捗状況すら知らされていないのだから当たり前と言えばそうなのだが。

 適当にサボれる場所でサボろうかと思っていると、誰かに肩を叩かれた。