この状態のまま俺と詩は彼女が一番見たかったというホッキョクグマ館に到着した。

「うわぁ!大きいなぁ」
「うん、デカい」
「もう少し感動してほしいよ。女の子は共感してほしい生き物なんだから」
 へぇ、と興味無さそうな声が出るが内心では自分に共感性が足りないのかと若干落ち込む。
他の誰に喜んでほしいとは思っていない。でも、詩には喜んでほしいし出来れば俺と一緒にいて楽しいと思ってほしい。
 ホッキョクグマの写真を撮り、詩が喜んでいる写真も撮り、二人でも写真を撮った。
元々スマートフォンの写真フォルダにはほぼ写真は入っていなかった。
 それなのにたった一か月で俺のフォルダには既に三十枚超えの写真が残っている。
二人の時間を残したいという思いとそれをすればするほど自分の首を絞めることになるという相反する思いが交差して俺は苦虫を嚙み潰したような顔をしてスマートフォンをポケットにしまう。

 その後、チンパンジーやエゾシカなどを見て回って動物園を出る。
既に二時間弱は楽しんだようだが日帰りということもあり俺たちは足早に次の目的地に向かう。
 途中で詩の食べたいという有名ラーメン店に入る。
そこは俺が事前に危惧していたようにそこまで広い店舗ではなく、カウンター席と三席のテーブル席が用意されている。
 カウンター席は既に埋まっており、奥の四人掛けの席が辛うじて空いていた。
それでもそこまで行くための動線が複雑で詩が間違えて転んでしまったり、食べ終えた客と接触しないかひやひやしていた。
 しかしそれも運よく最悪の事態は起こらず俺と詩は人気店のラーメンを食し店内を出る。

「美味しかった~」
「急ぐか」
「そうだね、日帰りってそれなりに大変だね。でも、それを上回る楽しさがある」
 詩と俺は次の目的地である白い恋人パークへ向かった。
時間に追われているのに凄く楽しかった。隣に詩がいるからだろう。
 彼女と俺には絶対に超えてはいけない壁がお互いの間にある。それを超えないように意識してハンカチという薄っぺらい布で距離を保つ。でも、その薄っぺらい布から伝わってくる詩の存在感が嬉しくて仕方ない。彼女はちゃんと俺の横にいる、と証明しているようだから。
 白い恋人パークは札幌でそれなりに人気のスポットのようで、北海道といえば白い恋人というワードが出てくるほど全国にもそれは認知されているだろう。
あまりに身近だから白い恋人を食べた最後の記憶はおそらく小学生の時だろう。
 ここは有料エリアと無料エリアに分かれているが、有料エリアでなくとも十分楽しめるらしい。俺も詩も入ったことはなく、今回が初だ。詩はここでソフトクリームなどのデザートを食べたいようだ。
俺たちは今日観光した中で一番に人の多い白い恋人パークに慎重になりながら足を進めた。

「テーマパークみたいだね」
「そうなんだよ。結構広いし子連れが多いのも頷ける」

 お菓子をつくれるようなワークショップもあったのだが、それこそ接触の可能性が高まるため断念した。でも、それ以外はここで一日中遊べるのではと思うほど、広い。