「美味しそう~」
ハンバーグプレートを注文した詩はバクバクと口を開けてどんどん食べていく。
「ごちそうさまでした!」
 俺と詩は円山動物園内のレストランで昼食を取った後、また広い館内を周り出した。

「このあとラーメン食べに行くんでしょ?」
「うん、食べる!」
「それなのにあんなに食べて大丈夫なの」
 既にレストランを出てから訊くことではないが、この後詩が行きたいと言っていたラーメン屋に行く予定だ。それを見越して俺は軽めのハンバーガーセットにしたのだが、詩はそれなりの量を完食していたから心配になった。でもよく考えると詩はそのあたり心配する必要はないのだけど。

「全然大丈夫、平気!本当はデザートも食べたかったけど我慢した」
「…そう、ならいいけど」
 詩と熱帯鳥類館に行く。あまり見慣れない鳥を見ながら時折休憩をした。

「人にぶつからないように」
「分かってるってば。手とか繋げたらいいのにね」
「…無理だろ」

 詩がぽつり、呟くように言う。即座に否定してしまったが、それは俺もずっと思っていたことだった。
そうだよね、と悲しそうにトーンを落とした詩に俺も切なくなった。
 と、目の前を歩いていた幼い子がハンカチを落とした。三、四歳ほどの女の子の手を引くお母さんはそれに全く気が付いていないようだ。
詩がすかさずそれを広い声を掛けようとする。それを俺が制して”なんで?”という顔をする。

「俺が行くよ。子供が詩に触れる可能性もあるから」
理由を説明すると詩は小さく首を縦に振った。俺はすみません、と言って俺たちの前を進む背中に声を掛けた。
同じタイミングで子供と母親は振り返る。驚いた表情も俺の持っているハンカチを見てすぐに柔和に変化しすみませんと言ってそれを受け取る。

「ありがとうございます」
「いいえ」
「ちゃんとしまってって言ったでしょう」
 幼い女の子にそう言って母親はその子の手を握る。それを見ながら俺は鞄の中からハンカチを取り出す。そしてそれを広げ、片方を掴むと詩に口角を上げ「端っこ、掴んで」と伝えた。
「ハンカチを?」
 頷くと詩はなるほどと言って俺と同じようにハンカチの端を掴む。
周囲からはどう見られているのだろうかと気にならないわけではないがそれよりも手を繋げない俺たちにとって精一杯の“恋人ごっこ”は気恥ずかしさとそして嬉しさが込み上げる。

「えへへ、手繋いでいるみたいだね」
「そうでしょ」
「本格的なデートです」
詩はまるで恋する少女のような顔をする。赤らむ顔を見ると俺まで同じような感情になる。