人混みは出来るだけ避けたいというのが本音だが、完全に避けるのは不可能だ。
それにそれだと詩の願いがかなえられない。
 窓際に詩が座り、その隣に俺が座る。お互い細身ということもあり、座席には余裕がある。
だがそれでも俺たちはお互いに触れないよう気を張っている。
 間違えて触れてしまえば一瞬で終わってしまうからだ。
窓の外を見ながら、一々感嘆の声を漏らす詩は相当に旅行が楽しいのだろう。
 そう思うと交通費が多少かかろうがなんてことはないと思った。

「蒼君、そろそろ学校始まるよね?」
「うん、始まる。課題は何とか終わりそうって感じ」
 詩が窓の外から右側にいる俺に目を向けた。
北海道の学校の夏休みは本州の夏休みに比べ短い。これが普通だと思っているから違和感はないが、他の県から転校生が来ると嫌な顔をする。

「来週からもう学校が始まるから」
つまりそれは、俺たちの別れが一週間を切っているということを意味する。
 学校なんか始まってほしくない。
「そっかー。ちゃんと学校行きなよ」
「分かってます」
「そう言ってサボりそうだもんなぁ!」
「ちゃんと講習出ただろ」
「うんうん、出たんだよね。嬉しかったよ、でも…無理もしてほしくないなっていうのがあって。どうして学校に行かなくなったの?」
「別に…全く行かないわけじゃない」
「でもほぼ行ってないのなら同じだよ。嫌な人でもいるの?」
 嫌な人…、と諳んじて俺は深く酸素を吸った。

「いない。でも、」
でも?と聞き返す詩に、詩ならば何とアドバイスをしてくれるのだろうかと思った。
「俺、高校一年生の頃に色々やらかした。そのせいでほぼ誰も口訊いてくれない」
「…やらかした?」
 初耳だという顔をするが、当たり前だ。初めて言ったのだから。詩はつぶらな瞳を控え目に逸らした後、数秒無言になった。