旅行当日は海に行ったときと同じく快晴だった。
気温も最高気温が二十八度らしく家を出てすぐに室温との温度差に顔を顰めていた。
 しかし隣にいる詩は暑さを感じないのか「よーっし!」と拳を突き上げ、どこぞのアニメの主人公のようなポーズを取る。

「テンション高いなぁ」
「だって朝いちから観光なんて初めてだもん」

 時刻は5時過ぎだ。
朝早くから札幌行の特急に乗り、一日楽しんだ後帰宅予定。
 詩が行きたい場所は事前にチェック済だ。
先日渡したガイドブックには幾つもの付箋が貼ってある。それを見ると暑さでうんざりしている場合ではない。
 函館駅までバスで向かい、その後始発の特急で札幌まで向かう。
多分車を所持している人ならば車で札幌まで向かう人が多いと思う。だけど俺たちは車の所持どころか高校生で親に内緒で札幌に行く。
 それなりのリスクはあるが、宿泊するわけではないから今のところ誰にも迷惑はかけていない。
昨日今日、母親は家に帰宅しない。事前の準備は完ぺきだ。
 函館駅に到着すると、始発ということもあり駅は人がほぼいない。サラリーマン風の男性や若い女性は数人見たがそれ以外はいない。
逆に俺と詩が目立ってしまうと多少の危惧はしたが誰も俺たちに話しかけてくる人はいなかった。
詩の分の切符は事前に購入していたからそのまま改札を抜けた。詩は白いワンピース姿で、珍しく高い位置でポニーテールにしている。
 俺の前をぴょんぴょん飛びはねるように進むから、それに合わせてポニーテールも揺れる。

「詩、あんまり走るなよ。ぶつかったら困るから」
「分かってるよ!」
「分かってないだろ」

 ふくれっ面をしながら「分かってるもん」という彼女に半ば呆れながらもこんな一日が一生続けばいいのにと思った。
残された時間は二週間を既に切っている。
 詩に関わる些細なことで心臓が掴まれるような痛みが走る。あぁ、もうこの笑顔を見ることは出来ないのだなとか普段は煩いくらい元気な詩がいなくなった自分の部屋を想像しては鋭い痛みが胸を貫く。
 札幌までの特急は始発ということもありほぼ人はいなかった。