「今度教える」
「今度っていつ?」
「うーん、私が消える少し前」
「……」

 途端、空気が重くなった。消えるという言い方でオブラートに包む。
詩が困ったように笑いながらごめんねと言った。

「こういう雰囲気にしたかったんじゃないの。でも…本当のことだと思うから。あとちょっとしか時間はないって思うと楽しい思い出作りたいな」
「そうだな。俺もそう思うよ」
でも、と俺は続けた。
「お姉さんには会えないけど学校に行くっていうのは詩の通っていた学校ってこと?」
 詩は首を横に振る。

「まさか。そんなことしたら化けて出てきたって思われるよ。顔くらいは知っている子もいるだろうし。だからそれは不可能なの、かなえられないのだけどやりたいことの一つだったから書いてみた。私ほとんど学校生活楽しめてないから」
 今は違う。触れることは出来ないが俺以外の人でも詩を見ることが出来るし喋ることもできる。触れられないということ以外は普通の人として接することが出来る。
どうにか詩にも元気な姿の今だからこそ学校生活を楽しませたいと思った。
 それはほぼ実現不可能な願いではあるのだが。
「そういうえば、今日はお母さん帰ってきてるね」
「うん、俊介が促したらしいよ。そんなの必要ないのに」
「本当に?」
「本当だよ。俊介の傍にいたらいいのに」
「そうかなぁ?でも、弟君は優しくて…お兄ちゃんが大好きなんだね」
「……」
 否定はしなかった。無言で木製の横に模様の入ったローテーブルをじっと見つめる。
詩は言った。
「それは蒼君も同じだ。蒼君も俊介君のこと大好きなんでしょ?」
違う、勢いよくそう声に出した。
 でも詩は俺の顔を見てもにこっと笑うだけだ。まるでお前の心の中なんてすべて分かり切っているとでも言うように。
俺だけが感情的になると同い年なのに子供っぽいかと思いそれ以上は何も言わなかった。
“高校一年生”の時を思い出した。それ以上思い出したくなくて俺は脳内に浮かびあがる過去の記憶を強制的にシャットダウンした。