「そうなんだ。それは…何というか、大変だな」
「何その反応!」
「いや、それ以外に反応の仕方が…」
「まぁそんなの普通信じられないよね。ほら、見て」

 そう言って彼女は地面を指さす。
ここで初めてあることに気が付いた。

「…あれ、」
「ね?おかしいでしょう?ほら、非現実的でしょ?」
「…なんで?」

 彼女には影がなかった。俺にはあるし、絶対になければならないものだ。それがないのだ。何度も瞬きを繰り返してもそこにはあるはずのものがない。
誇らしげに胸を張る彼女に困惑しながら言った。

「本当なの?今の話」
「本当だってば…信じてくれてないみたいだから…しょうがないな、ついてきて!」
そういって彼女は歩き出すがすぐに「私には触れないでね!」と念を押すように振り返る。
「分かってるよ」

 そういう“設定”だと思っていた。だが、確かに彼女にはあるはずの影がない。
砂浜を抜け、自転車を押しながら歩道を歩く。触れてはいけないというルールがあるようだから一応ぶつかって触れてしまってが困ると思い一定の距離は取る。
後ろに続く俺は彼女の華奢な背中を見ながら“俺、何してんだろ”と思った。
講習もサボってこうやって初対面の女の子についていく。