そのうち、持ってきた花火のだいたいが終わり、残るは線香花火のみになった。

「私ね、線香花火大好きなんだ」
「そうなんだ。何で?すぐ消えちゃうのに」
「そこがいいんだよ。そもそも花火ってすぐ消えちゃうでしょ?儚さがあって好きなの」
「ふぅん、」
 何となくわかるような気がした。お互いしゃがみ込んで、線香花火に火をつける。
パチパチと音を立て、先ほどまでの花火とは全く異なる火花を散らしていく。
 次々に火花が飛び散るが、徐々にその勢いがなくなっていく。
すると、詩が口を開いた。

「どっちがのこるか勝負ね」
「いいよ」
しかしそう言った直後、詩の線香花火がぼとんと地面に落ちてしまった。
「ああー!負けちゃった!もう一回!」
 俺はふっと小さく笑った。俺の線香花火が落ちるともう一度勝負をすることになった。
しかし次に同じ勝負をしたが俺の線香花火の方が詩のそれよりも長く火花を散らしていた。
 線香花火は確かに情緒があり、繊細でどこか儚いそれがいいのだと思う。
火の玉がやがて消えていく様子をボーっとしながら眺める。
 俺たちは一時間ほど公園で花火を楽しんだ。
帰り際、詩は言った。そろそろ家に到着するというタイミングだった。

「弟さんとは会わなくていいの?」
「うん、いいんだよ、そんなことは」

 やけに真面目な声色でそれを感じ取ると話題も相俟って気まずい。
二人だけの足音が響き渡る。

「もしかしたらそのうち一時帰宅するかもって聞いたけど」
「そうなんだ!私も挨拶出来たらいいのに」
「無理だろ、ていうかしなくていいよ」
「きっと会いたがっているよ。私もそうだったから」
 狡いと思った。詩は弟の立場でそう言う。でも、俺は違う。

「そんなことはない。俺が…」
―俺が迷惑なんだよ

 そう言おうとしたが、それは喉の奥で何とか止まってくれた。これを言えば詩が傷つくことになるからだ。詩は姉が好きだと言っていた。でも姉は違うと。
その理由を間接的に伝えると彼女を傷つけてしまうことになる。既に彼女はこの世からいなくなっている存在で、家族に会いたくても会えない。
それだけでも十分に…彼女は傷ついているのだ。

「きっと、会いたがっているよ」
「…そうかな」
「そうだよ」
 家に到着するとシャワーに入り夕食を食べ、すぐに眠りについた。
この日は早くに睡魔が襲ってきた。気が付くと朝になっていた。