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「花火、花火!」
先ほどまではしんみりとした雰囲気だったが、俺が花火を大量に購入してバケツの中にそれを無造作に入れ公園に向かっている頃には詩はいつもの彼女になっていた。

「花火ってしたことあるんだっけ?」
「そりゃあるよ。小さいころだけど」
「へぇ、やっぱりあるんだ。私もね、あるにはあるんだけど…全然つまらなかったなぁ。家族と一緒にやったことしかないけど…お姉ちゃんは私がいるとやりたくないって」
「…あぁ、お姉さんか」

詩の家に行った時のことを思い出す。詩のお母さんの奥歯にものが挟まったような言い方にはそれなりの理由があった。
もちろん詩の気持ちもわかるが、俺は立場で言えば詩の姉の立場だ。
 ほぼ同じ立ち位置だからこそ詩が姉と上手くいっていないことの理由もわかる。だからこの話題になると複雑だった。
公園に到着すると、辺りを見渡した。知り合いがいないことが二人で花火を出来る条件だ。
 幸い、まだ誰も公園にはいなかった。

「火事にならないように気をつけながら遊ぼう!」
「急に先生みたいなこと言うよな」
詩がバケツ一杯に公園に設置されている蛇口を使用して水を貯めた。
それを俺の近くに細い腕をプルプルさせて運んでくる。一生懸命な彼女を見るとつい頬が緩む。可愛いなとか自然に思ってしまう。口に出すのは恥ずかしいのでもちろん黙っておくが。
「花火、花火!」

 チャッカマンで詩の持っている花火に火をつけた。
詩はキャッキャと小学生のような反応を見せる。詩の持つ花火に俺の持つそれを近づけ点火する。青、赤、黄色、オレンジ、様々な色を見せる。
素直に綺麗だと思った。花火が好きというわけではないが、詩と一緒だと不思議と楽しいのだ。不思議と全てが楽しい思い出になる。

「うわぁ!綺麗!」
「本当、綺麗だな」
 詩の持っている花火が消える。すぐに違う花火を手にして俺のまだ消えていない花火に点火する。

「うふふ、たのしいなぁ。ねぇ、写真って撮ってる?」

 しゃがみ込み、そう訊く彼女は撮ってほしいと言っているようなものだった。
実は俺は詩に内緒でたまに彼女を隠し撮りしていた。
 それは幽霊でもない、人でもない彼女が写真に写るのか気になったのだ。
目に見えているのだから写らないということはないと思ったが、予想通り詩はちゃんと写真の中に写っていた。
 海に行ったときも彼女を撮影している。はしゃぎすぎている彼女は俺が写真を撮っているところに気が付くことはなかった。
今も気づいてはいないようだ。

「撮ってないよ」
「じゃあ今度撮ろうよ」
「いいけど」
 二人で撮ろうという詩はその後もどんどん花火を点火して楽しんでいる。
既に残された時間は半分もない。二週間と少しが経過した今、詩との時間のリミットは確実に近づいているのだ。写真なんか撮ればきっと辛くなるだけなのに、俺はまだ消せていない。
 彼女がいなくなった時、消す勇気はあるだろうか。
詩は花火を二つ持ってクルクルと回る。
「目が回る~」と言いながらやめようとしない。
「気をつけろよ、転んだりしたら大変だから」
「蒼君って過保護だよね」
「はぁ?」
「あははは、だってお父さんみたいじゃない?」
「お前が子供っぽいからだろ」

ムッとしたまま次の花火に火を点けた。