「私昨日死んだの!死んだばかりなの!」
「…いや、だから…病院行ったら?死んでないでしょ。俺見えてるわけだし」
「そうなの。見えているんだよね…幽霊にでもなったのかと思ったんだけど…あなただけじゃなくてみんなに見えているみたい。でも、」
そう言って彼女は目を伏せた。
「死神さんが言ったことは本当だったみたい。私死ぬ前日に夢を見たの。夢って言ってもその時は夢だと思っていたんだけど…あれが夢じゃなかったの。死神さんがあなたの死期を早めてしまったって言って病室にね…謝罪に来たの」
「いやいやいや、ちょっと本当に意味が分からないんだけど。俺がわかるように“現実的”な話してくれない?」
「現実に起こったことなの!とにかく!私は昨日死んだの。それでどういうわけかみんなに見えているようなの。幽霊にはなれなかったみたい、成仏も出来なかったみたいで」
「…なんで?」
そこじゃないと思いながらも幽霊になれなかったという彼女の話を深堀してみることにした。気にならないかと問われれば確かに気になることではある。彼女の脳内が知りたい。
「私ずっと病気で入院生活を送っていたの。だから友達もほぼいないんだけど…。で、死期が近いことも何となくわかってたんだ、だから死神を見たときもそこまで驚かなかった。まぁ夢だと思ったからっていうのもあるんだけど。その時に死神さんは言ったの、“一か月死期を早めてしまった代わりに亡くなった後に早めてしまった分の時間をくれる”って。私の場合は隣の病室の人と間違われたみたいなの。だからもう死んじゃったけど…何故か元気な姿で人とも話せるみたい。でも…それには条件があるみたい」
「条件?」

 あまりに真面目な顔をして話すものだからつい俺も聞き入ってしまった。
彼女はうんと頷くと続けた。

「私は人間に触れちゃダメみたい。理由は…なんだかよくわからないんだけど死神さんが何度も言っていたの。だから多分…私は今人に触れたらせっかくもらった時間が消えてしまうらしいの」
「…俺以外にも君のことは見えるけど、触れてしまったら消えるってこと?」

 そういうこと、と言って口角を上げる彼女は俺なんかよりもずっと快活で誰からも好かれる子だと思った。
そんな子が嘘を言うとも思えないが、今の話を受け止められるほど俺は馬鹿ではない。
非現実的過ぎるのだ。