俺はにこやかな笑みを浮かべたままそれを受け取り詩へ手渡す。もちろん彼女に触れないように、慎重に。明らかにおかしい奴だと思われたようでそれは店員の顔を見ればわかる。
驚いた表情から頬を引き攣ったような表情へ変化させ、「ごゆっくり」と詩にいう。
「きっと嫉妬深い彼氏だって思われたよ」
「別にいいよ」
うふふ、と詩一人だけが楽しそうに笑う。
詩は着替えるのが早いようで、すぐに水着の試着を終えてカーテンから顔を出した。
「とっても可愛い!」
「上だけだよな…?着替えたの」
「うん、とりあえずね。サイズもぴったりだからこれ買おうかな」
「見てもいいの?」
「見たいって言ってたもんね?いいよ」
詩はほんのり頬を赤らめている。変な汗が出ているのが分かった。
ゆっくりカーテンを開けるとそこには上半身水着姿の詩がいる。想像以上に胸が大きくて瞬きを繰り返した後「…うん、似合ってる」とありきたりな言葉を掛ける。
「でしょ?可愛いよね、早く海に行きたい」
「…可愛い」
「え?今、可愛いって言ったよね?しかも本気のやつ!」
「言ってない!」
「言ったよ!」
「……」
こんなところで騒ぐわけにはいかず、俺は試着室から離れた。
店員が近づいてくる。
「どうでした?お似合いでした?」
「はい、似合ってました。購入するそうです」
「良かったです」
店員の女性からは既に引き攣った顔ではなく、接客用のスマイルに戻っていた。
その後、アイスクリームを食べたいといった詩の要望に応える為、水着の入った紙袋を手にしたままアイスクリームを探すためフラフラとショッピングモール内を歩き回る。
「あ、あった!あれソフトクリームじゃない?」
詩が指さしそう言った。数メートル先にソフトクリームの絵が書かれた黒板が置いてある。
カフェというよりテイクアウト専門店のようだ。一応近くに二人掛けが座れるベンチが用意されてある。
俺は小走りでソフトクリームに向かっていく詩の背中を追いかける。
「えっと…ミックスがいい!」
「ミックスね、わかった。俺も同じのにしようかな」
感じのいい三十代ほどの男性店員にミックスソフトクリームを二つ注文して近くのベンチに腰掛ける。
三人は座れそうなベンチだったが、俺と詩は一人分の距離をあけて座った。
だんだんと慣れてきたとはいえ、傍から見ればおかしい二人だろうか。それともまだ付き合いたてのカップルか友達以上恋人未満の関係で初々しいように周囲からは見られているだろうか。
触れたくても触れられない。いずれ彼女は消えてしまうのだ、それが早いか遅いかの違いなのに。
「美味しいね」
「そうだな」
「私たちって周りからカップルに見られてるんじゃないかな」
「そうかもな」
「素っ気ないなぁ。もう少し照れてもいいのに。慣れてきた?この会話」
「うん。完全に慣れた」
小さな子供のようにキャッキャと笑う。
でも、と思う。俺は幸せなのだ。もしも彼女が幽霊として俺の前に現れてしまったら俺だけにしか見えていないから彼女の存在は俺だけの中でしか生きられない。
でも、今ここにいる人たちに詩は見えている。それは詩がこの世に一か月だけとはいえ生きていたという証になる。
アイスクリームを食べ終えると俺たちは帰路につく。
驚いた表情から頬を引き攣ったような表情へ変化させ、「ごゆっくり」と詩にいう。
「きっと嫉妬深い彼氏だって思われたよ」
「別にいいよ」
うふふ、と詩一人だけが楽しそうに笑う。
詩は着替えるのが早いようで、すぐに水着の試着を終えてカーテンから顔を出した。
「とっても可愛い!」
「上だけだよな…?着替えたの」
「うん、とりあえずね。サイズもぴったりだからこれ買おうかな」
「見てもいいの?」
「見たいって言ってたもんね?いいよ」
詩はほんのり頬を赤らめている。変な汗が出ているのが分かった。
ゆっくりカーテンを開けるとそこには上半身水着姿の詩がいる。想像以上に胸が大きくて瞬きを繰り返した後「…うん、似合ってる」とありきたりな言葉を掛ける。
「でしょ?可愛いよね、早く海に行きたい」
「…可愛い」
「え?今、可愛いって言ったよね?しかも本気のやつ!」
「言ってない!」
「言ったよ!」
「……」
こんなところで騒ぐわけにはいかず、俺は試着室から離れた。
店員が近づいてくる。
「どうでした?お似合いでした?」
「はい、似合ってました。購入するそうです」
「良かったです」
店員の女性からは既に引き攣った顔ではなく、接客用のスマイルに戻っていた。
その後、アイスクリームを食べたいといった詩の要望に応える為、水着の入った紙袋を手にしたままアイスクリームを探すためフラフラとショッピングモール内を歩き回る。
「あ、あった!あれソフトクリームじゃない?」
詩が指さしそう言った。数メートル先にソフトクリームの絵が書かれた黒板が置いてある。
カフェというよりテイクアウト専門店のようだ。一応近くに二人掛けが座れるベンチが用意されてある。
俺は小走りでソフトクリームに向かっていく詩の背中を追いかける。
「えっと…ミックスがいい!」
「ミックスね、わかった。俺も同じのにしようかな」
感じのいい三十代ほどの男性店員にミックスソフトクリームを二つ注文して近くのベンチに腰掛ける。
三人は座れそうなベンチだったが、俺と詩は一人分の距離をあけて座った。
だんだんと慣れてきたとはいえ、傍から見ればおかしい二人だろうか。それともまだ付き合いたてのカップルか友達以上恋人未満の関係で初々しいように周囲からは見られているだろうか。
触れたくても触れられない。いずれ彼女は消えてしまうのだ、それが早いか遅いかの違いなのに。
「美味しいね」
「そうだな」
「私たちって周りからカップルに見られてるんじゃないかな」
「そうかもな」
「素っ気ないなぁ。もう少し照れてもいいのに。慣れてきた?この会話」
「うん。完全に慣れた」
小さな子供のようにキャッキャと笑う。
でも、と思う。俺は幸せなのだ。もしも彼女が幽霊として俺の前に現れてしまったら俺だけにしか見えていないから彼女の存在は俺だけの中でしか生きられない。
でも、今ここにいる人たちに詩は見えている。それは詩がこの世に一か月だけとはいえ生きていたという証になる。
アイスクリームを食べ終えると俺たちは帰路につく。