詩は俺の撮った動画を何度も見ながら泣いていた。
就寝時間になっても、彼女はいつまでも動画を見ていて鼻を啜る音が聞こえるたび胸の奥がズキズキと痛む。本当は自分が直接会って直接渡したかったはずだ。
 それでも今の彼女はそれが出来ない。こうして画面越しで“会う”ことしか出来ないのだ。
何度も寝返りを打ちながら、詩が寝静まるのを待つ。

「ねぇ起きてる?」
「起きてるよ」
「今日は本当にありがとう。聞いたと思うけど…私の家も蒼君と同じだよ」
「うん、今日知った。お姉さんがいるんだよな」
「そう、いるよ。でもお姉ちゃんは…私のこと好きじゃないみたい。当たり前だよね、お父さんが違うしそのお父さんとの新しい子供と仲良くしろなんてさ…出来ないよね。蒼君と同じ立場なんだよ、私のお姉ちゃんは」

 俺は何も言い返せなかった。
詩のお母さんが言っていた、“お葬式の時もお姉ちゃんだけはね、何故か涙を一つも流さなかった”というあの言葉に自身を重ねていた。
例えば、俊介の持病がきっかけで急に亡くなってしまったら…―。
 俺は泣けるのだろうか。今のところ入退院を繰り返しているだけだが、何がきっかけで何が引き金でそうなってしまうかはわからない。
俺の部屋に充満する重たい空気。

「でも…私は、お姉ちゃんのこと好きだったんだ。優しいところもあって、たまにお見舞いに来てくれると私の好きなお菓子買ってきてくれるの。最後の方はほとんど来てくれなかったけど大学生だし来年から就職だから…忙しかったのかなって」
「きっと、そうだよ。読んでくれるといいな、手紙」

そうだね、と小さな声で返事が返ってくると俺たちは目を閉じた。

 ―きっと、そうだよ

 それは今の俺に向けた言葉でもあった。だからこそ、胸のずっと奥が痛いのだ。
『俊介にはお兄ちゃんが忙しいからって言っているんだから。いい加減見舞いくらい来なさい』
『お兄ちゃんいつくるのって言ってるわよ。去年はそれなりに来てくれていたじゃないの』
 嫌いだった。急に出来た弟と仲良くしろなんてそんなことできるわけないと心の中で暴言を吐く。だがそのたびに同じくらい罪悪感もあった。
仲良くしなければ、新しい家庭に馴染まなければならない。分かってはいても出来なかった。
 父親はいつまで経っても壁を作り、よそよそしい。弟だけが無邪気に俺を兄ちゃんと呼ぶ。だが、そんな汚い心を持ったまま弟に接することが出来ない。

 俺はずっと取り残されている。母親が再婚してからずっと。