「ふふ、これにあなたのことも書いてある。相当仲が良かったのね」
「…俺のこと?」
「ええ、これを友人の蒼君に託しますって。あの子、どんなにつらくても絶対に弱音を吐かなかった。だから母親である私たちも絶対に泣いちゃいけないって思って、弱っていくあの子を見ても泣き顔なんか見せなかった」
「分かります、詩さんはそういう子です」
「そうよね、うちは特に私が再婚しておねえちゃんと仲が良くなかった時もあって」
え、と戸惑いを含む声を漏らした。
 再婚など聞いていない情報だった。初耳だ。だが、お姉ちゃんに会いたいと確かに書いてあったあのリストを思い出す。

「聞いてなかった?そうよね、さすがにそこまで話すことはないわよね」
そう言って、既に結露したグラスを手にして麦茶を一口飲むお母さんは一息つく。
「詩は再婚相手の子供なのよ。だからお姉ちゃんとはあまり仲が良くなくてね。と言ってもお姉ちゃんが一方的に敵視していたというか…詩はお姉ちゃんお姉ちゃんっていつもついて回っていたのよ。今、お姉ちゃんは大学4年生で来年就職するの」
「詩さんのお姉さんはお父さんが別なんですね。すみません、初耳で」
「ええ、そうよ。お葬式の時もお姉ちゃんだけはね、何故か涙を一つも流さなかった。親としてはね、仲良くしてほしかったのだけどこればかりはしょうがないわね」
「あの、お姉さん宛にもお手紙を預かっていて」

 詩のお母さんは目を丸くし、言葉をのむ。俺は鞄の中からもう一通の手紙を渡した。
お姉ちゃんへと書かれたそれを見てお母さんはほろほろとまた静かに涙を流す。
「渡しておくわ、ありがとう」

 お母さんはそう言ってもう一度お礼を言う。
「なんだか今日一日凄く詩を感じることが出来た。近くにいる感じがして…嬉しい。よかったらまたうちにきて線香でも上げていって。そしてあなたの知っている詩をもっと教えてほしい。きっとあの子も喜ぶと思うの」
分かりました、そう言ってお辞儀をした。
玄関先まで見送ってもらい、詩のお母さんがもう見えなくなったのを確認してから詩を探した。
 詩は人に触れられると消えてしまうからすぐに現れてくれないとヒヤヒヤする。
誰かにぶつかったりして消えてしまったのではないか、と。
しかし俺の心配とは反対に明るい声が聞こえた。「蒼君」と俺を呼ぶ声に視線を動かすと詩が小走りで近づいてきた。
「ありがとう、お母さんだけだった?」
「うん、お母さんだけだった。とりあえず一度家に帰ろう。動画撮ってあるから」
俺は詩と一緒に先に自宅に帰宅することにした。