ちょっとおかしい奴に絡まれたかもと思いその隙に俺は逃げようと立ち上がる。
だが彼女はそれをさせてはくれなかった。
 
 直ぐに俺の意図に気が付き、「見えているんですよね!」と透き通る声を張り上げて言う。
あまりに必死そうだったから、(暇だったという理由もあるが)見えるよと言った。
彼女とは一メートルほどは距離があった。
 しかし立ち上がって彼女を見ると目線の位置はだいぶ違って大人っぽい雰囲気はあるものの低身長何だなと思った。一応180センチはある俺とは30センチほど差があるようだ。
目を潤ませて所謂上目遣いをする彼女は無意識でそれをしているようで俗に言う小悪魔要素があるなとどうでもいいことを考える。

「見えるんですよね?!やっぱり」
「…まぁ。見えますけど。あのかえっていいですか。俺も忙しいんで」
と、息を吐くように嘘を言う。
だが、名前も知らない異常に肌の白い美少女は言った。
「私死んでいるんです」
「……はぁ?」

 頭のおかしい人間はそれなりに…一定数いるのかもしれないと思った。
これ以上関わり合いたくないと思った俺は「そうなんですね」と抑揚のない声で返すと彼女の脇を通って過ぎ去った。

「死んでるって…馬鹿じゃねーの」

 人をからかっているのだろう、それか本気でそう思い込んでいるのだろう。
どの道、関わることはしたくない。
しかし彼女は俺の後をついてくる。
背後からついてくる足音が確かに聞こえる。砂を踏む音が確かに聞こえる。
イライラしながら短パンのポケットに手を突っ込み歩くスピードを速める。
それでも彼女は小走りで俺の後ろをついてきているようだ。

「あのさぁ!」

 怒気を孕む声でそう言いながら振り返るとその子も何故か俺を睨みつけている。

「いや…何?」
「だからぁ!!話くらい聞いてくれたっていいじゃない!ここにいるみんな誰かと一緒なんだもん、あなたにしか頼めないよ」
「…頼む?」
海に来ている人はみんな誰かと一緒だという間接的に俺を傷つけるワードをサラッと言い頼むという態度とはかけ離れた口調の彼女は続けた。