「ごめん。本当に」
「どうして蒼君が謝るの?何も悪いことしてないでしょう?」
「もう少し頑張って引き留めたかったけど…」
帰りのバスの中、詩は自身が書いた手紙をじっと見つめたまま「ありがとうね」と言った。
「美世ちゃんはね、頭もいいし同い年なのに頼りになる人なんだ。だからもう私のことは忘れちゃっているのかなって思ったけど逆だったんだ」
「…そうだな。美世ちゃんは、詩のこと忘れるどころか整理できてないって言ってた」
「うん、あんな風に泣いた美世ちゃん見たことないよ。ごめんねって…言いたい」
詩はせっかく綺麗に皺のつかないよう丁寧に扱っていた手紙をぎゅうっと原型を変えるほど強く握った。
肩を震わせ、ごめんねと何度も言っていた。何と声をかけるのが正解なのかわからなかった。
家に帰っても詩はずっと元気がなかった。
明日は両親に手紙を渡しに行く予定だった。でも、この精神状態でそれは可能なのか疑問に思う。詩は家に入ることは出来ないから俺がスマートフォンで会話を録音しようと思っていた。
詩は母親が夜食として残しておいてくれた夕食はすべて食べたのだが、一日中元気がなかった。悄然とした様子の彼女は布団に入っても口数が少なく、何かを考えている様子だった。
「明日、大丈夫?」
「うん、行くよ。両親はちゃんと受け取ってくれると思う」
“両親は”という言い方に疑問はあったが、深くは聞かなかった。
―翌日
詩が簡単に朝食を作ってくれてそれを食べてから家を出た。
詩はずっと緊張した面持ちをしていた。昨日の親友のあのような態度を見ると緊張するのは無理もない。
「ごめんね、罵声浴びせられたりするのって全部蒼君だもんね」
「そんなことない。付き合うよ、最後まで」
“最後”というワードを深く胸に刻む。一日が過ぎるたびに、俺も残されたうちの一人になることを考え、苦しくなる。その時、俺は耐えられるのだろうか。
詩の実家に来るのは二度目だ。あの日、詩に出会ったあの日…俺は夢でも見ているのではと思うほど非現実的なことを目の当たりにした。
きっと、詩の親が詩本人を見てしまったら腰を抜かすだろうなと思う。彼女はこうしてまだ幽霊でもなく人間でもない、そんな中途半端な状態で俺の前にいる。
閑静な住宅街を進み、鈴村家の表札が見えてきたところで詩が足を止めた。
「じゃあ私少し離れたところから待ってる」
「分かった。…じゃあ、できれば録音か録画しておくから」
「うん、ありがとう。お父さんは多分いないから…お母さんだけがいると思う」
「そっか。じゃあ渡してくる」
詩は複雑そうな顔をして俺から離れていく。深呼吸をしてからインターホンを鳴らした。
「どうして蒼君が謝るの?何も悪いことしてないでしょう?」
「もう少し頑張って引き留めたかったけど…」
帰りのバスの中、詩は自身が書いた手紙をじっと見つめたまま「ありがとうね」と言った。
「美世ちゃんはね、頭もいいし同い年なのに頼りになる人なんだ。だからもう私のことは忘れちゃっているのかなって思ったけど逆だったんだ」
「…そうだな。美世ちゃんは、詩のこと忘れるどころか整理できてないって言ってた」
「うん、あんな風に泣いた美世ちゃん見たことないよ。ごめんねって…言いたい」
詩はせっかく綺麗に皺のつかないよう丁寧に扱っていた手紙をぎゅうっと原型を変えるほど強く握った。
肩を震わせ、ごめんねと何度も言っていた。何と声をかけるのが正解なのかわからなかった。
家に帰っても詩はずっと元気がなかった。
明日は両親に手紙を渡しに行く予定だった。でも、この精神状態でそれは可能なのか疑問に思う。詩は家に入ることは出来ないから俺がスマートフォンで会話を録音しようと思っていた。
詩は母親が夜食として残しておいてくれた夕食はすべて食べたのだが、一日中元気がなかった。悄然とした様子の彼女は布団に入っても口数が少なく、何かを考えている様子だった。
「明日、大丈夫?」
「うん、行くよ。両親はちゃんと受け取ってくれると思う」
“両親は”という言い方に疑問はあったが、深くは聞かなかった。
―翌日
詩が簡単に朝食を作ってくれてそれを食べてから家を出た。
詩はずっと緊張した面持ちをしていた。昨日の親友のあのような態度を見ると緊張するのは無理もない。
「ごめんね、罵声浴びせられたりするのって全部蒼君だもんね」
「そんなことない。付き合うよ、最後まで」
“最後”というワードを深く胸に刻む。一日が過ぎるたびに、俺も残されたうちの一人になることを考え、苦しくなる。その時、俺は耐えられるのだろうか。
詩の実家に来るのは二度目だ。あの日、詩に出会ったあの日…俺は夢でも見ているのではと思うほど非現実的なことを目の当たりにした。
きっと、詩の親が詩本人を見てしまったら腰を抜かすだろうなと思う。彼女はこうしてまだ幽霊でもなく人間でもない、そんな中途半端な状態で俺の前にいる。
閑静な住宅街を進み、鈴村家の表札が見えてきたところで詩が足を止めた。
「じゃあ私少し離れたところから待ってる」
「分かった。…じゃあ、できれば録音か録画しておくから」
「うん、ありがとう。お父さんは多分いないから…お母さんだけがいると思う」
「そっか。じゃあ渡してくる」
詩は複雑そうな顔をして俺から離れていく。深呼吸をしてからインターホンを鳴らした。