車通りの多い道路を渡って、部活生の声がするグランドに目を向ける。
夏休みだというのに普段の学校生活と変わらないその様子を見てどこの学校も同じなのかと思った。
(夏休みくらい部活動も休めばいいのに…)
詩の手紙が入った鞄を手にして歩き出す。
「会えるといいけど…吹奏楽部なんでしょ?」
「そう。夏休みもほぼ部活動あるんだけどこの時期は多分早く終わるの。だから入院していた時、夏休みの期間は面会来てくれる回数多かったな」
「美世ちゃんってどんな子?」
詩から親友の特徴を聞いた。
「身長は私よりも高くて、目がくりくりしていて…それから髪型はボブヘアだね」
「…うん、わかった」
ざっくりした特徴を話す詩にとりあえず校門から道路を挟んだ公園で詩の親友を待つことにした。詩は視力がいいらしくじっと獲物を狙う虎のように一人一人をチェックしていた。
俺もそれらしき人を探していたが、見当たらない。
と、ここで詩が大きな声を出す。
「美世ちゃんだ!」
「マジ?どこ?」
「ほら、あの可愛い子だよ」
「…あ、あの子?」
詩が指をさす。その向こうにはちょうど詩の話していた特徴の女の子がいた。友達と一緒ではなく一人で歩いている。その方が都合が良い。
吹奏楽部だから楽器を持っているのかと思ったが、詩に訊くとほぼ学校においてあるそうだ。テスト期間や夏休みなどは別らしいが。確かに俺の学校も楽器を持って帰っている人はあまり見なかったように思う。
「行ってくる。この公園に連れてくるから詩は見つからない場所に隠れていて。人とぶつかるなよ!」
分かった、と短く返事する詩を背に俺は走り出していた。
美世ちゃんだというその子に向かって「すみません」と大きな声を出していた。
ボブヘアの制服姿の女の子は俺の声に振り返ると俺を視界に捉え怪訝そうな顔を見せる。
当たり前だ、見知らぬ人から声を掛けられれば皆そういう顔をするだろう。
それに故意ではないが切羽詰まっていたからその必死さも相俟って相手が引いても無理はない。
「すみません!美世さんですよね」
ここで、苗字を聞き忘れたことを思い出す。
「そうですけど…あの、何か用ですか」
彼女はきりっとした目元をしたどちらかというと詩とは正反対の印象を受ける女の子だと思った。口調もどこか冷たい。(他人だからかもしれないが)
「あの、お話いいでしょうか」
「すみません、急いでいるので」
「違うんです。ナンパとかではなく…、詩から手紙を預かっていて」
「手紙?詩?」
俺を無視して背を向けようとした瞬間詩という名前でそれが止まった。
もう一度俺に振り返り、「どういうこと?」と聞いた。
眉間に寄った皺は消えることはない。
「俺、詩の友達で。彼女から預かっているんです」
「嘘よ、あの子に男の友達なんかいるわけない」
吐き捨てるようにそう言った彼女は確信しているようだった。
同時にそれくらい詩を知っているのだという牽制でもあったのかもしれない。
「本当です。とにかく、少し話がしたいんです。あの公園で、」
「何言ってるの。詩はもういないのっ…!詩が手紙を残しているとすればそれは両親に渡しているはずでしょう?!馬鹿にしないでっ…私は…まだ、…まだ、詩のことっ…ちゃんと整理できてないの…それなのに、馬鹿にしたことしないで」
睨みつける彼女の目から大粒の涙が頬を伝って落ちていく。制服にその跡を作り、乾ききっていないのに何度も何度も濡らしていく。
俺はそれ以上引き留めるようなことは言えなかった。
これが残されたものの正直な反応なのだと思った。
詩が公園で待っているのに、手紙を出す暇もなく彼女は憤りを置いてその場から立ち去ろうとする。
「からかってなんかないです。ただ、本当に詩の手紙を渡したいだけです。何かあれば連絡ください、番号は…―」
大股で歩く彼女の背中に電話番号を伝えた。
夏休みだというのに普段の学校生活と変わらないその様子を見てどこの学校も同じなのかと思った。
(夏休みくらい部活動も休めばいいのに…)
詩の手紙が入った鞄を手にして歩き出す。
「会えるといいけど…吹奏楽部なんでしょ?」
「そう。夏休みもほぼ部活動あるんだけどこの時期は多分早く終わるの。だから入院していた時、夏休みの期間は面会来てくれる回数多かったな」
「美世ちゃんってどんな子?」
詩から親友の特徴を聞いた。
「身長は私よりも高くて、目がくりくりしていて…それから髪型はボブヘアだね」
「…うん、わかった」
ざっくりした特徴を話す詩にとりあえず校門から道路を挟んだ公園で詩の親友を待つことにした。詩は視力がいいらしくじっと獲物を狙う虎のように一人一人をチェックしていた。
俺もそれらしき人を探していたが、見当たらない。
と、ここで詩が大きな声を出す。
「美世ちゃんだ!」
「マジ?どこ?」
「ほら、あの可愛い子だよ」
「…あ、あの子?」
詩が指をさす。その向こうにはちょうど詩の話していた特徴の女の子がいた。友達と一緒ではなく一人で歩いている。その方が都合が良い。
吹奏楽部だから楽器を持っているのかと思ったが、詩に訊くとほぼ学校においてあるそうだ。テスト期間や夏休みなどは別らしいが。確かに俺の学校も楽器を持って帰っている人はあまり見なかったように思う。
「行ってくる。この公園に連れてくるから詩は見つからない場所に隠れていて。人とぶつかるなよ!」
分かった、と短く返事する詩を背に俺は走り出していた。
美世ちゃんだというその子に向かって「すみません」と大きな声を出していた。
ボブヘアの制服姿の女の子は俺の声に振り返ると俺を視界に捉え怪訝そうな顔を見せる。
当たり前だ、見知らぬ人から声を掛けられれば皆そういう顔をするだろう。
それに故意ではないが切羽詰まっていたからその必死さも相俟って相手が引いても無理はない。
「すみません!美世さんですよね」
ここで、苗字を聞き忘れたことを思い出す。
「そうですけど…あの、何か用ですか」
彼女はきりっとした目元をしたどちらかというと詩とは正反対の印象を受ける女の子だと思った。口調もどこか冷たい。(他人だからかもしれないが)
「あの、お話いいでしょうか」
「すみません、急いでいるので」
「違うんです。ナンパとかではなく…、詩から手紙を預かっていて」
「手紙?詩?」
俺を無視して背を向けようとした瞬間詩という名前でそれが止まった。
もう一度俺に振り返り、「どういうこと?」と聞いた。
眉間に寄った皺は消えることはない。
「俺、詩の友達で。彼女から預かっているんです」
「嘘よ、あの子に男の友達なんかいるわけない」
吐き捨てるようにそう言った彼女は確信しているようだった。
同時にそれくらい詩を知っているのだという牽制でもあったのかもしれない。
「本当です。とにかく、少し話がしたいんです。あの公園で、」
「何言ってるの。詩はもういないのっ…!詩が手紙を残しているとすればそれは両親に渡しているはずでしょう?!馬鹿にしないでっ…私は…まだ、…まだ、詩のことっ…ちゃんと整理できてないの…それなのに、馬鹿にしたことしないで」
睨みつける彼女の目から大粒の涙が頬を伝って落ちていく。制服にその跡を作り、乾ききっていないのに何度も何度も濡らしていく。
俺はそれ以上引き留めるようなことは言えなかった。
これが残されたものの正直な反応なのだと思った。
詩が公園で待っているのに、手紙を出す暇もなく彼女は憤りを置いてその場から立ち去ろうとする。
「からかってなんかないです。ただ、本当に詩の手紙を渡したいだけです。何かあれば連絡ください、番号は…―」
大股で歩く彼女の背中に電話番号を伝えた。