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 電車とバスを乗り継ぎ、40分ほどかけて北斗市にあるという詩の親友の家に行くことになった。もちろんだが、詩は本人に会うことは出来ない。
俺が詩の友人だったという体で会う。怪しまれるかもしれないが、それを渡したらすぐにその場から離れるつもりだ。
 問題は本人に会えるのかということだ。詩の話では吹奏楽部をやっており今も部活動で忙しいのではないかということだ。だから部活動終わり、学校近くで親友を見つけたいそうだ。
もしも会えなかったら、また明日計画を立てるらしい。

「…ドキドキするなぁ。美世ちゃんに会えるんだ…」
「親友ってどのくらいの付き合い?」
「小学校の頃からの友達。でも小学校4年生くらいから学校に通えなくなってきて。高学年になる時にはほぼ通えていなかったから友達っていう友達がいなくて。それなのに美世ちゃんは中学生になっても私に会いに来てくれたの。ほら、病気だって知るとみんな腫れ物に触るような接し方になるじゃない?しょうがないことではあるんだけど…そんな中美世ちゃんだけはずっと友達だった。ずっと…」
 バスで揺られる中、詩は窓の外に目をやったままそう言った。
どんな表情をしているのかは不明だが、声が少し震えていた。詩の手がバスの座席に置かれていて、手を伸ばせば届きそうなのにそれを握ってあげられないもどかしさが俺の心に募っていく。触れないように、触れてしまえば彼女は消えてしまう。
 これが神様の気まぐれで起こったことなのだとするのならば…せめてもう少しその優しさを分けてほしいと思った。
「いいね、親友がいるっていうのは」
「そうでしょう?私…何もなかったけど誇れる親友と家族がいることは自慢だった」
と、ちょうどバスのアナウンスが流れる。目的地に到着したようだ。
 詩と下車すると、辺りは夕陽に包まれていた。