「志望理由は…“参考書代を稼ぐため“と”塾代の足しにするため“か」
「はい、早急に欲しくて」
「へぇ。確かに学校は中部高校?じゃあ進学校だ」
「そうです。弟がいるのですが、病気のため入退院を繰り返しています。そのためあまり親にも金銭的に迷惑を掛けられないので」

 なるほどね、と言った店長は書類に目を通しながら何度も頷いていた。
我ながら嘘をつくのが上手いと思った。同時に俊介のことを理由として話すことには抵抗があったが短期間でそれなりの額を稼ぐにはしょうがない。
 短期のアルバイトで高校生も働けて、その日に給料をもらえるとなると田舎ということもありそこまで選択肢はない。
今日は書店の棚卸し作業の面接に来ていた。期間も二日間だけというそれなりに負担の少ないバイトだ。時給もそこそこよくてここは受かっておきたい。
 四十代ほどの男性の店長は顎に手を当て、足を組みかえる度にギシギシと軋む音が気になる。

「うん、採用。明後日からだからよろしく頼むね」
「ありがとうございます」
 頭を下げ、店を出た。心の中でガッツポーズをしてスマートフォンを弄りながらバスを待っていた。
詩のやり残したこと、やりたいことリストを頭の中で思い浮かべる。

「手紙、だっけ」

 詩が俺の前に現れて既に一週間が経過していた。
詩との生活も慣れてきたし、周りから冷ややかな目を向けられながら講習に出るのにも慣れた。出なければ『嫌な人がいるんでしょ!私が文句言ってあげるから一緒に行こう!』なんて本気で言うからちゃんと行っている。詩が学校に乗り込むよりもマシだから。
 バスで揺られながら自宅に到着すると既に昼食を作っている詩の姿がある。
今日は一日中家に母親はいない。仕事が休みだから祖父母宅に泊まる。
 そんな日は朝からまるで彼女のように朝食を作り昼食も用意してくれる。
母親も最近俺が料理をするようになったと勘違いして食料を買っておいてくれることが増えた。

(詩がいなくなったら…何て言おうか)

 一週間が経過したということは残り三週間弱だ。詩が死神とやらに一か月時間をくれると言われたらしいが本当はずっとこのままでずっと俺の元にいられるのでは何て思った。
だって、死んだはずの彼女がこの世に誰の目にも映る存在として生活できているのだから可哀そうな少女に神様の気まぐれで命の再生は出来ないが生きるはずだった時間をくれるなんてこともあるのではないかと思うのだ。
要するに俺がもっと詩と過ごしたいと思っていたのだ。

ぽっかり空いた俺の心の隙間を埋めるように、詩は俺の生活に彩を与える。