「何言ってんだよ、違うだろ。誤解されたら困る」
「ひっどい!だって言ったじゃん。デートだから彼氏っぽい感じでって!」
「“ぽい”って言っただろ、なんで同じ学校の子に彼女って言っちゃうんだよ」
「あ!そっか…もしかして蒼君好きな子いるの?だとしたら迷惑だったよね…」
 しゅんと落ち込み、視線を足元に落としていく詩に「いない!」と否定する。
すると詩はまた笑顔に戻って「良かった」と言った。
そんなことを言われれば、大抵の男は狼狽えるだろう。
「ほら、始まる」

 詩と一緒に上映案内受付をしている列に並んだ。
映画が始まってすぐに自分の座席にそれぞれポップコーンの入った容器を確認する。
「手、触れないように注意して」
「分かってる」
 詩はキャラメル味がいいと言い、俺は塩味にした。
だが、詩はどちらも食べたいというからたまに交換しながら食べることになった。
 映画館内は暗いから間違えて彼女に触れてしまえば大変なことになる。
上映が始まる。二時間と少し俺たちは映画を観るが後半になると隣から鼻を啜る音がした。
横目で詩を確認すると号泣していた。
 何度も涙を手で拭っているようだった。
ポケットからアイロンの掛けられていないしわくちゃなハンカチを取り出し彼女に差し出す。すると詩はぺこっと頭を下げてそれを取る。
 こういう小さなやり取りでも神経を使う。
触れないようにとハンカチの端を持ち、彼女も気を付けながら受け取る。
 上映が終わると一気に館内が明るくなりぞろぞろと皆が立ち上がる。
そんな中、彼女だけは何度も涙を拭い「…ひっく」としゃくり上げていた。
 映画の内容はハッピーエンドとは言えなかった。病気でどんどん記憶を失っていく女性を支える男性とのラブストーリー。
いつか忘れてしまうとわかっていてもどうしてもその最後まで傍にいたい男性と男性のためにどうにかして離れたい女性の心情が良く伝わってきた。
「なんか…すっごく泣いちゃった。ハンカチありがとうね」
「いいよ。大丈夫、それより結構いい映画だった」
「うん、そうだよね、本当…素敵な映画だった」
詩の目は真っ赤で映画館を出ても余韻に浸っていた。

 映画館を出て駅近くをぶらぶらすることになった。一応今日はデートという設定だからだ。