映画館はそれなりに混みあっていた。
夏休みということで学生も多い。俺はきょろきょろ辺りを見渡しながら発券機でチケットを二枚購入した。
詩が見たいといったのはよくあるようなラブストーリーだ。最近はやっているというそれは記憶が無くなっていく女性と男性のストーリーで一人だったら絶対に選択しない映画だ。

「ポップコーンとか食べる?」
「うん、食べる!」
「じゃあ買ってくる。待ってて。人いないところに座ってて」
 詩にそう言うと、二人分のポップコーンとジュースを買った。
(夏休みだけバイトするか…)

 二人分のポップコーンなどを買って詩が待っている場所に向かう。
詩も俺を見ていた。男女の高校生が一緒に映画を観るというのは傍から見ればカップルにしか見えるのかもしれないなと思っていると俺の名前が聞こえた気がした。
振り返ると、そこには一年生のころ同じクラスだった女子二人がこちらを見ていた。
 今日は学校の連中によく合うなと思った。
見なかった振りをして詩の座る隣に座った。上映時間まであと15分ある。
腕時計にちらっと視線を送る。

「ねぇ、あの人たちさっきから私たちのこと見てない?」
「……」
「もしかして、蒼君の友達?」
「違う、友達じゃない。一年の頃同じクラスだっただけ」
「じゃあ友達ってことでしょ?」
「同じクラスだっただけで友達ってどんだけ友達の幅広いんだよ」
「私挨拶してくるよ!蒼君が学校に行きやすくなるように」
「いらないって!おい、詩!」

 苛立ちを含む声で叫ぶようにそう言うが彼女は無視して立ち上がる。
人が多くなってきているというのに、だ。
もし誰かにぶつかれば消えてしまうということを分かっていないのだ。
俺も続くようにして立ち上がる。

「あの!蒼君の友達ですか?」
「…え、っと。そういうわけじゃないけど…」
 私服姿の女子二人はまさか詩が近づいてくるとは思ってもいなかったのだろう。
困惑しているし、若干引いていた。
「詩!何してんだよ、ほら、上映案内してる。行くぞ」
だが、詩は構わず続けた。
「こんにちは!私…蒼君とは違う学校なんだけど、良かったら蒼君と仲良くしてあげてほしいの」
「…ごめんなさい、私たち違うクラスだし。っていうかあなた…蒼君の彼女?」
 詩は目を瞬かせ、少し考えこむように視線を空に移したあと笑顔で言った。
「うん、彼女!」
「…え、」
「そ、そうなんだ。ごめんね、邪魔しちゃって。じゃあ…」
 そう言って女子たちは逃げるように背を向け小走りで俺たちの前から去っていく。