♢♢♢

「いってらっしゃい~!」
 詩が手を振り、玄関先で俺を見送る。母親は先に家を出ている。
一緒に朝食を食べたのだが昨日のあの発言を気にしてなのか絶対に二人分以上ある朝食を見て思わず笑ってしまった。
「サボっちゃダメだよ!嫌な人いるなら私が文句言ってあげるよ!」
「いないって」
 ドアが閉まる直前までそう言っていた詩の声に思わず苦笑いをしていた。
「行けばいいんでしょ、行けば」

 一人、そう呟き肩に掛けた鞄を強く握り歩き出した。
この日も相当気温は高く、数メートル歩くだけで汗が出る。バス停でバスが来るのを待っていると背後に人の気配を感じた。
振り返るとそこには同じクラスの橋本がいた。橋本も俺に気づくと嫌そうな顔をして目を逸らす。ちょうどバスが来て俺は鬱屈とした気分のままバスに乗り込む。
(俺の家の近くに住んでいるってことか?今まで会ったことなんかないけど)
 もちろん橋本と俺はかなり離れた位置に座り一言もしゃべらなかった。
バスの揺れに連動して窓に頭をつけガラス越しに外を見ているその視界も揺れる。

 だるい、全部がだるい。
適当に出席して適当に卒業すればいい。どうせ高校の同級生なんて卒業さえすれば会うことなどないわけだし。大学も合格できそうな偏差値のところを受験する。それでいい。それで。
 到着すると橋本は俺よりも早く下車して小走りで校門目指して進む。
俺は橋本とは対照的にのんびりと歩いていた。
昇降口が見えると、胃がずっしりと重くなるのがわかる。