黙々と食べ進める母親もきっとこの時間が嫌いなのだろうと思う。
朝食は顔を合わせないよう最初からいらないと言えたのだが、夕食をいらないとはさすがに言えない。だからこういう気まずい時間をさけることは出来ない。
今日の夕食は肉じゃがに鮭、漬物、サラダに味噌汁だった。
 母親が俺の目を見ずに「俊介が会いたいだって」と言った。

「そのうち行くよ」
「そのうちっていつ?せっかく調子が良くなっているのに」
「…別にいいだろ、いつだって」
「夏休みどうせ暇なんでしょう?」
「暇じゃないから。やること沢山あんの」
 やることなど詩のやり残したことを叶えてやるということ以外ないのだが、それを他言することは出来ない。詩が幽霊で俺にしか見えていなければ頭のおかしいやつで片づけられるかもしれないが、そうではない。
 詩は俺だけではなく皆に見えている。なのに彼女は死んでいる。
「やることって何よ。夏期講習いってるの?」
「……」
 味噌汁を啜る音がリビングに響く。母親は多分知っている。俺が講習もさぼっていることを。
だから言っているのだ、せめて俊介の見舞いくらい来たらどうだ、と。
俺はかきこむように残りのおかずを口に入れ、ごちそうさまとだけ言い立ち上がった。
 リビングを出ると微かに二階のドアが開閉する音がした。
一段飛ばしで階段を上り、そのまま部屋に行くと詩が座椅子に腰かけていて俺と目が合う。

「今、下に来ていただろ」
「…ちょっと話を聞いていただけだよ」
「何してんだよ。見つかったらどうすんの」
 強めに叱るがもちろん小声だ。下にいる母親に不信に思われる。
でも、詩は悪気は全くないようだ。顔に出ている。

「お母さん心配してたじゃない」
「してないよ。弟のことしか頭にないんだよ、あの人は」
「そんなふうには思わなかったよ。そうだ、私やっぱり夕飯が食べたい!今度から夜食分も用意してくれると嬉しいって伝えてきてくれない?」
 俺は目を見開き、ゆらゆらと首を振る。
「さっきいらないって言ってたじゃん」
「いいじゃん!とにかくお母さんにそう言ってきて」
 詩は意外と頑固なところがある。それは出会って二日しか経ってないけどわかる。
それに詩は自分の分の夕飯が欲しいのではなく母親と会話をするように仕向けているのだ。
そんなことは考えなくともわかる。