「ネットカフェってどういうこと?何で行きたいの?」
「あぁ、それはね…私読んでいた途中の少女漫画があるの!」
「…え?」
少女漫画?と聞き返すと同然!と言った顔をして深く二度頷く。
詩はそれから堰を切ったように自分が読んでいた漫画の話をした。
「もうキュンキュンするんだぁ。私恋なんかしたことなかったからそれで疑似体験していたの。全部妄想だけど」
「妄想…」
「何その目!引かないでよ」
「引いてないけど…女の子ってそういう感じなんだって」
「普通の女子高生はみーんな彼氏いるでしょ?私はいないからしょうがないの!その続きがどうしても読みたいの…私5巻までしか読んでなくて」
俺は函館駅に向かうバスに乗ることにした。駅近くにネットカフェがあるからだ。
近くのバス停でバスが来るのを待ちながら詩のその少女漫画の内容を永遠に訊かされる。
「その少女漫画って何巻まで出てんの?」
「10巻まで出てるよ。それが最終巻だったんだけど結局最後まで読めなくて」
「へぇ、そうなんだ」
「全然興味ない返事だね」
むうっと頬を膨らませ怒っているようだがこちらへのダメージはゼロだ。
「俺も恋したことないけど」
「ええ!そうなんだ!なんで?好きな子いないの?」
「いない。学校も結構サボってるし。講習もあるけど行ってない」
「嘘!行ってないの?…行きたくないの?」
詩は土足で人の触れてほしくない領域に踏み入れてくる。きっと今の俺はそれには深く踏み入れてほしくないという雰囲気を体中から出しているだろう。だが、詩はもう一度聞いてくる。詩だって剣呑な空気を察知しているはずなのに。
「何か…嫌なことする人でもいるの?」
「いや、そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ行こうよ!」
「はぁ?」
「夏期講習も行ってないんでしょ?勿体ないよ。嫌なことしてくる奴がいるっていうなら話は別だけど」
「いいんだよ。学校なんて行っても行かなくても」
「良くないよ!だから机の上にまっさらな問題集があったんだね!あれ絶対夏休みの課題でしょう?」
「急に先生みたいに説教するなよ。ほら、バス来たよ」
ちょうどタイミングよくバスが来た。
詩はふくれっ面のまま乗車する。
一番後ろの席が空いていた。