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 翌朝

「おっきろー!」
「うわぁ!」

 俺は低血圧でそのせいで朝が苦手だ。目覚ましを幾つもかけたとしてもなかなか起きることは出来ない。だけど、この日は違った。
一発で起きた。詩が俺の顔を覗き込み、大声で叫んでいたからだ。
「なんだよ…まだ九時じゃん」
「もう九時でしょ?入院していた時の名残で勝手に目が醒めちゃったの。六時起床だったから」
「へぇ」

 ぐしゃぐしゃと髪をかき上げ、眠たい眼を擦りながら床に足をつける。眠い、と五回言うと詩は「分かった分かった。顔洗ってきなよ」と適当にあしらう。
一階に下りて洗面台で顔を洗う。詩は既にそれらの準備をすべて終えていたようだ。
俺と同じタイミングでリビングに来ると彼女は「朝食は?お腹空いた」と先ほどまでは母親のようなことを言っていたくせに今は子供のようなことを言う。

「あー、俺朝食は食べないから」
「ええ…ダメだよ。食べないと。だから痩せてるんじゃない」
「お前だって痩せてるだろ。人のこと言えんのかよ」
「私は食べたくてもなかなか食べられなかったの!もしも普通に元気な女の子だったら多分お相撲さんレベルには太ってたと思う」
食べたくても食べられなかったというワードに一瞬ドキリと胸が痛むがそのあとのお相撲さんレベルには太っていたと思うという詩に思わず噴き出して笑っていた。
「何で笑うの?とにかく、沢山食べなきゃダメだよ!病気になったらあっという間にやせ細って食べたいもの食べられないんだから」
「分かったって。適当に作る」
「それなら私が作っていい?」

 またもや母親のような顔を見せた後詩は俺の了承を得る前に台所に向かっていた。
母親は今日帰宅するとすれば夜になるだろうと思いながら詩の後に続く。