あからさまにこの話題を避けるのもカッコ悪いと思った。
だけど、結局常に全部のことから逃げている俺は“カッコ悪い”のだ。学校も、家も全部どうだってよくて流されるように生きている。
暇だったから詩に付き合っているだけだ。きっと彼女もそれは薄々気が付いているのだろう。

「そうなんだ。何て名前?」
「俊介。産まれたときから心臓が悪くて今も入退院を繰り返している。母親はそのせいで週末は家にいない。じいちゃんの家の方が近いからってそこに泊まってる。それから父親は血が繋がってない、再婚して出来た子供が俊介。だから年が離れている。被るけど父親は仕事で家を空ける日が多い。今も長期出張だし」

一気に吐き出すように、でも事務的に詩に伝えた。
吐き出してもちっともすっきりしない。だけど、すんなりと口に出来たのは詩だからだと思った。クラスメイトでも家族でも教師でもない。友達でもないから言えたのかも、と。
詩は俺のことを友達だといったが彼女の友達の範囲は相当広いのだろう。
今日出会った人を友達だというのは普通ではない。このまま大人になれば誰の事も信じて騙されてしまいそうな危うさがあると思った。

「そういうことだったんだ。生活感があまりないなって思った」
「でしょ」
「うん。でも…何て言うか…私は蒼君の弟さんの立場だから…お姉ちゃんにもきっとこういう思いをさせていたんだなって」
「……」
どういう表情をしているのかはわからない。
詩が真っ暗だと眠れないというから枕元の電気だけはつけてある。だから確認しようと思えば彼女の顔は確認できるのだけど、その勇気がなかった。
よく考えると詩は俺の弟の立場なのだ。それに彼女には姉がいるという。
重なる部分が多くなっていく。
「会いたいなぁ」
詩は俺だから声を掛けたといったが、おそらく一番に会いたいのは家族なのだろう。
きっと詩の家庭は笑顔の絶えない強い絆で結ばれていたのだと簡単に想像ができる。

 彼女を見れば、どれだけ家族に愛され家族を愛しているのか伝わってくるから。
俺とは正反対なんだ。きっと彼女が学校に普通に通える子だとしたら俺と詩は絶対に仲良くなんかならないだろうし喋ることもないだろう。そういうタイプなのだ。
 暫くすると眠気に襲われた。重力に耐え切れなくなった瞼を閉じた。