リビングルームの電気をつけると片づけられたリビングのテーブルにはいつも通り5千円札が置いてある。
それを見て詩が「今日は出前なんだ…」と今にも消えそうな声で言った。

「そうだよ」
「今日はご両親不在だったら私も一緒に食べていいの?」
「もちろん」
「やった」

 二人で出前を取ることにした。
片づけられた、というと聞こえはいいかもしれないが生活感がないのだ。
新しい父親は出張で良く家を空ける。母親も週末はほぼ自分の実家に帰る。お掃除ロボットに食洗器、洗濯機も乾燥機能付きだから家事はしなくていいようになっている。

「何か食べたいものある?」
「何でもいいけど…あ!かつ丼食べたい!」
「かつ丼?」
「私病院食ばっかりだったし、ずっと体調悪いから全然油っぽいもの食べれなくて。がつんとくるも食べたい!」
「食べれるの?その体で」
「失礼だなぁ。食べられます!全部」

 詩のその言葉を信じてかつ丼を注文した。
確かに、ずっと入院生活を送っていれば入院食とは真逆のものを食べたくなるだろうなと思った。細い腕を見ると完食できるのかと疑問に思ったがそもそも彼女は既に死んでいる。
 未だに詩が死んでいるのは信じがたい。
こうやって喋ったりものを動かしたりできるのに死んでいるなど誰が信じるだろうか。
出前は直ぐに届いた。久しぶりに一人での夕食ではなかった。

「ねぇ、これすっごく美味しい!」
「残したら俺食べるから無理しない方がいいよ」
「全然!とても美味しい~」

 リスのように頬一杯にかつ丼を含み幸せそうに目をとろんとしてあっという間に完食した。
彼女は満腹だと言っていたので驚いた。

「そういうの感じるんだ。お腹いっぱいとか」
「うん、びっくりだよね。お腹が減ったとかは全く感じないのに。ごちそうさまでした!」

 詩は両手を合わせて何度もありがとうとお礼を言う。
一人で食事をするよりも何十倍も気分がいい。いつもは空腹を満たすだけの行為が今日は違うようだ。それは詩がいるから、なんだけど。
「俺の部屋案内する。そのあとは、シャワー浴びて寝よう」