「いやぁ、本当に申し訳ない。あのー、私まだ新人なんですよ。だから全然悪気はなかったんですよ。本当に、いや…本当に」

 自分よりも明らかに幼い容姿をした女の子はその見た目と反して大人びた喋りで何度も何度も謝罪した。
それをどこか他人事のようにぼんやりと眺めながら、首を捻った。

「本当にあなたは死神さん?普通の女の子に見えるのだけど…」
「ええ、人間から見ると死神となりますかねぇ」

 真っ白な病室には似つかわしい真っ黒な髪をしたおかっぱ頭の少女がくいっと口角を上げた。
口紅でもつけているのではと思うほど真っ赤な唇がやけに協調されて目に映る。

 鈴村詩は“これは夢だ”と思い、今日はやけにリアルな夢を見るなぁと考えていた。
抗がん剤の影響で悪夢を見ることもあるから、こういうリアルで少しでもくすっと笑えるような夢は両親がお見舞いに来た時の話のネタになる。
少しでも親には笑ってほしいと思いながら、目を閉じようとするがその少女はベッドの周りを覆っている透明の仕切りを通り抜け詩のいるベッドの縁まで移動してきた。
あ、と小さな声が漏れるのと同時に少女は「申し訳ないですね、本当に」と言った。
恐怖はなかった。夢だと思っていたから。

「本当にすみませんねぇ…“間違えて”しまいまして、あなたは明日目覚めることはないのです」
「…何を言っているの?」

 恰好は死神のイメージとは異なる白いポンチョのようなものを着ている。
カマのようなものを持っているわけではないし、人間を死に追いやるイメージのそれとはやはり違う。

「私たちの仕事はもうじき死ぬ人間の魂を管理するのです。番号を付け、予定通りに死を訪れさせる。死んだ人間を死後の世界へ案内するのも私たちの仕事です」
「あの…ごめんなさい。何を言っているのか」
「あなたは本来来月に死を迎える予定でした。それなのに私としたことが…あぁ、本当にすみません。隣の病室の人間と間違えてしまったのですよ」

 明らかにおかしなことを言い続ける少女に眉間に皺を寄せていた。確か隣の病室の人は70代くらいのおばあちゃんだったような気がする。
副作用の強い薬のせいで、寝返りを打つことも億劫だったのに上半身を起こしていた。

「どういうことですか?私、明日目覚めないの?死んじゃうの?」
「ええ、そうです。すみません、一か月後だったのを勘違いしていまして…。ですがもうサインもしてしまいまして、戻せないのです。だから、お詫びというのもちょっと違う気がしますが亡くなった後、あなたに一か月だけ人間として生きられるように何とか上と掛け合ってみます。さすがに一か月も早めてしまったのに何もしないというのも気が引けるので」
「……」

 ぺらぺらと喋った後、その少女は消えてしまった。跡形もなく消えていったのを目の当たりにした。
一か月後、死ぬ予定だったといわれても実感はない。
だが、これは夢だと思いながらも心のどこかで自分の死期がそう遠くはないことを心のどこかで感じていた。
「…やりたいこと、たっくさんあるのに」

 そう呟いて目を閉じると、眠気が来ていつの間にか意識を手放していた。
もしも、あの死神さんが本物の死神だったならば、一か月という時間をくれるらしい。
元気な体でその時間をくれるのであれば、何がしたいだろうと考えた。