僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 それにしても、自分でも呆れた。
『多分大丈夫ってなんだ? 多分って…。頼りにしていいって聞かれたら、「僕に任せてくれ。何かあったら君を守る」と言うべきなのに、せめて、せめて、「あぁ」って言えばいいのに、よりによって、多分大丈夫って…』
 豪介は自分の言葉に深く落ち込んだ。

7月9日 月曜日 期末テスト終了4日後
 花田豪介はこんなにも学校終わりの放課後を待ち遠しいと思ったことはなかった。
「授業が終わったら図書室の前で待ち合わせましょう」
 牧園さんから言われたこの言葉を思い出し授業中でもニヤニヤしてしまう。抑えても抑えても抑えることができない顔の緩みだった。3組内での孤独も、久保田のよそよそしさも何も気にならない。一昨日まであんなに暗く感じていた世界が、今日は光り輝いて見える。この前まで宇宙にたった一人の孤独を感じていたのに今はお花畑の中でフォークダンスをしているような気分だ。
 蔵持銀治郎が椅子に立ち上がり「恋人募集中は締め切りました」と言っている。
 新しい恋人ができたのかもしれない。だが今はそんな声も余裕を持って聞き流すことができる。
『あぁ、そうっすか』
 なんと言っても、自分は放課後牧園さんと待ち合わせているのだ。
『お前が振られた牧園さんと俺は待ち合わせているんだぜ!』
 豪介の心は優越感で満ちていた。さらに、椅子の上に立つ銀治郎に『見てろ、お前の尻尾を掴んでやる』と心の中で宣戦布告をする。
 放課後、豪介はダッシュで教室を飛び出すとその勢いのまま図書室を目指した。都合の良いことに久保田は恋人の典子と帰るのに夢中で豪介の存在を無視してコソコソと教室を出ていっていた。その久保田にも『お前は典子か、俺は牧園さんと待ち合わせをしてるんだぜ』と心の中で優越感に浸る。
 階段を上がって左に曲がって突き当りが図書室だ。どうやら豪介が先に着いたようで、まだ牧園さんは来ていない。ここに牧園さんがくるかと思うとまた顔が緩み出す。ピシッと立っていられない、体から骨がなくなったようなふにゃふにゃした感覚に襲われる。
 トントントントン…。
 階段を上がってくる足音が聞こえ出した。急いでやってくるのがその音でわかる。豪介の心拍数が上がっていく、豪介は身構えた。
 光とともに牧園さんが現れた。
『やっぱり本当だった。僕は牧園さんと待ち合わせていたんだ』