僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 豪介は朝の出来事でクラスのみんなが久保田に一目置き、久保田へのいじりがなくなったことを友達として喜ぶ一方で、久保田の序列が上がったことを複雑な心境で受け止めていた。なんといっても豪介にとっては唯一の友達だ。その久保田が自分から遠ざかっていく気がしていた。
 下校の時間となり、豪介は久保田を探した。
 その久保田は豪介が自分を探している気配がしたので、見つからないようにして教室を出た。久保田は典子と付き合い始めた言い訳をしなければいけないような気がして、しかも豪介の彼女をとったような気がして後ろめたさを感じていた。その後ろめたさは言い換えれば豪介に対する優越感であり、それ以上に「大きな胸です」と言ってウケた時の高揚感が久保田の気分をよくしていた。だが実際はそんなことよりも何よりも、典子から一緒に帰ろうと言われていたことが一番大きかった。友達を見捨てるわけではないのだが、やはり友達を見捨てた。
『だって典子が待ってるんだもん』
 そういう理由で、久保田ははっきりと豪介のことを避けた。
 放課後、そそくさと教室を出た久保田は校門を出ると、待っていた典子を見つけた。気恥ずかしいやら、嬉しいやら、付き合い始めたら本当に一緒に帰るんだ。そんなことを考えながら「一緒に帰ろ」と言われ「うん」と返事をした。久保田の少し後ろに典子がついて歩き、時折久保田が後ろを振り向いて典子を確かめた。
 二人はガチガチに緊張し合っていた。
「…」
 無言の時間が続く。
 久保田は何を話したらいいのかわからない。典子だって何を話していいのかわからない。典子は迷った挙句、久保田の隣に並ぶと隣の1組の噂話を始めた。
「ねぇ、久保田君」
「な、なんだい」
「1組の唯って子知ってる?」
「井上唯?」
「そう。友達に聞いたんだけど、なんか、期末テスト白紙で出したんだって…」
「へぇ」
「2組の中村芽衣って知ってる?」
「あっ、うん…。写真の時の」
「そう私の友達。あのとき友達だから助けてもらったの。芽衣ちゃんね付き合ってた彼がいたんだけど別れちゃったんだって」
「へぇ、そうなんだ」
「他にもクラスの子のいろんな話知ってるよ」
 典子は自分の知っている噂話や、女子だけに回っている話を次々と披露していった。久保田は相槌を打ちながら聞いていた。
 そんな二人の後ろ姿を豪介がじっと見ていた。