僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

「どこを好きになったんだよ」
 久保田は震えながら懸命に耐えていた。それでもついに耐えきれなくなったのか追い詰められた久保田は勢いよく席を立った。
 ガガッー! と椅子が引かれる音がして、みんなが久保田に注目する。
『立っちゃった、立ってしまった…』久保田の頭は真っ白になった。何かを考えて立ったわけではない、一体何を言ったらいいのか分からない。
『俺は何を言うんだ、一体何を言うつもりだ…』
 自分でも意識せず勝手に口をついて言葉が出た。

「大きな胸です」

 誰もが予想しなかったその言葉にクラス中が大爆笑になった。
 久保田は図らずも起死回生のホームランを放ったのだ。自分で言おうと思って言った言葉ではない、とっさに、本当にとっさに出た言葉だった。声も裏返っていた。だが高校生にとって大きな笑いを取るということはそれだけでクラスの中の序列に影響を与えるということだ。久保田のこの一言は一気に久保田の序列を上げ、一目置かれる存在となった。そしてこの裏返った声で言う「大きな胸です」は言えば必ず笑いが取れる3組限定の必笑ギャグとなった。

 2組では。
 話の中心は末松典子だった。典子の周りに中村芽衣やクラスメイトの女子が自分の椅子を持って集まってきた。
「典子、よくあの状況で、久保田君が好きって言えたね」
「だって、言わなかったらきっとまたゴンスケとくっつけられるんだよ、そんなこと絶対に嫌だもん」
「それは分かる」
「でも、やっぱりすごいよ、尊敬する」
「ねぇ、ねぇ、いつから好きだったのよ」
「本当はね、高校1年の時から」
「へぇ。一途」
「ねぇ、芽衣あんた知ってた?」
「久保田君だって知ったのは最近」
「どこがいいの?」
「どこって、だって、格好いいでしょ」典子は顔を赤らめた。
「…どこが?」
「顔よ」
「へっ?」
「私のモロ好みなの。ね、格好いいでしょ」
 典子から格好いいでしょうと言われても他の女子にはあの長いのっぺりした顔の久保田のどこが格好いいのかわからなかったが、典子が久保田のことを本当に格好いいと思っていることだけは伝わってきた。
「まぁ、でもよかったよね、ゴンスケとくっつけられなくて」
「そうよ、危ないところだったんだから」
「これで両想いじゃん」
『わぁ…』
 典子は両想いという言葉に顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

 1組では。