僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 どうやら一つ一つのメッセージを削除しているようだ。削除しても削除してもメッセージのやり取りに終わりはない。見ている視界がぼやけてははっきりして、またぼやけていく。やがてメッセージは全てなくなった。視線が携帯の上の方へずれるとそこに名前があった。「文太」そのまま視線は動かなくなった。
 豪介も知らぬ間に繋がりが切れて深い眠りに落ちていった。

7月5日 木曜日 期末テストの翌日
 学校では2年生の全クラスが理由も告げられず、1時間目から急遽自習となった。
 3組では。
 先生が来ないことを知ると蔵持銀治郎が久保田をからかい始めた。今までは典子をネタに豪介がからかわれていたが、3組にあって豪介はからかうネタもないつまらない奴になっていた。代わりに久保田が目をつけられた。
「よ、久保田、昨日はあのあと典子と一緒に帰ったのか?」
「なぁ、チューしたか?」
 久保田は顔を真っ赤にして下を向いた。昨日あそこで「はい」と言った瞬間からこうなることはわかっていた。わかっていながら典子からの告白に「はい」とうなずいた。久保田は典子と堂々と付き合うことを選んだのだ。
「典子のどこがいいんだよ?」
「…」
「やっぱり顔か?」
「どこを好きになったんだよ?」
「昔から好きだったのか?」
「可愛いねって言ったのか?」
「典子はお前のことなんて呼ぶんだ?」
「治君て顔が長いのね、とか言われるのか?」
 それを聞いてクラス中がクスクス笑い出した。皆聞いていないふりをして聞いていた。その笑いを聞いて銀治郎のいじりはますます続く。
「手ぐらい握ったか?」
「典子って呼ぶのか、のりりんか、のりピッピか?」
「なぁ、どこを好きになったのかぐらい教えろよ」それは、痛々しいほどのいじりだった。
 久保田は心臓がドキドキするほど追い詰められ、必死に考えていた。
『何かを言わないとずっとずっと僕はいじられる。何かを言わないと、でも、典子の顔だと言ったら嘘になるかもしれない、性格なんて知らないし、どう言ったらいい…。このいじりがなくなるような都合のいい言葉は、どう言ったらいい…』なかなかいい考えも浮かんでこない。このまま待っても先生がやってくる気配はない、なんとか自分でこのピンチを切り抜けるしかない。「ハァ、ハァ、ハァ…」息が苦しい。
「なぁ、どこを好きなったのか教えてくれよ」
「ハァ…、ハァ…、ハァ…」