この時点で豪介は犬のウンコになった。視界に入っても無視をされる存在。豪介はそっとこの場所から外れて行く。笑われなかったことにホッとしたが、それは本来もっと辛い最下層の住人から「あってもないもの」にまで落ちた瞬間だった。
とにかく、みんなの興味の対象は久保田に移った。
久保田が典子の横に来ると、典子は真っ赤な顔になり下を向いてしまった。久保田コールが小さくなり、皆が固唾を飲んで二人を見守る。
誰に促されたわけでもなく下を向いたままの典子が「久保田君…」と呼びかけた。
みんなの視線が典子に集まる。
「…」
教室内は水を打ったように静まり返り、誰も何も発しない。みんなはほんの小さな声でも聞き逃すまいと意識を集中した。
「付き合ってください」
みんながさらに集中して久保田を見る。
久保田の周りの空気がピンと張り詰める。典子も久保田がなんと言うのか緊張して返事を待っている。
「はい」
静まり返った教室に、久保田のか細く小さな声が響き、教室内は爆発したような歓声に包まれた。
「うおおおおおお…」
誰も想像しなかった結末に教室内は大いに湧き、祝福の拍手が沸き起こった。ふたりが揃って真っ赤な顔で下を向いている。ここに最下層のカップルが誕生した。
しかし、誰よりもびっくりしたのは教室の端で久保田の「はい」という声を聞いた豪介だった。二人で典子の悪口をあんなに言っていたのに、面食いだった久保田が、牧園ゆかりさんを好きだと言った久保田が、大きな胸が好きだった久保田が…。
『そうか!』
脳天に雷が落ちたような衝撃だ。この前、久保田に典子が本当に好きなのはお前だと伝えた時から久保田は典子と付き合うことを、あの胸と付き合うことを考えていたに違いない。
豪介はいま自分がどんな顔をしているのだろうかと思った、ちょっと余裕のある微笑みができているだろうか、それとも泣き出しそうな顔になっているのだろうか…。豪介は誰にも気づかれないように教室を抜け出した。
同じ時間、職員室では。
1組の井上唯が近藤麻里先生から呼ばれていた。職員室の近藤先生の机の上には数枚の白紙の答案用紙が置かれている。
「どうしたの?」近藤先生が唯に尋ねるが、唯は黙って立っているだけだった。
とにかく、みんなの興味の対象は久保田に移った。
久保田が典子の横に来ると、典子は真っ赤な顔になり下を向いてしまった。久保田コールが小さくなり、皆が固唾を飲んで二人を見守る。
誰に促されたわけでもなく下を向いたままの典子が「久保田君…」と呼びかけた。
みんなの視線が典子に集まる。
「…」
教室内は水を打ったように静まり返り、誰も何も発しない。みんなはほんの小さな声でも聞き逃すまいと意識を集中した。
「付き合ってください」
みんながさらに集中して久保田を見る。
久保田の周りの空気がピンと張り詰める。典子も久保田がなんと言うのか緊張して返事を待っている。
「はい」
静まり返った教室に、久保田のか細く小さな声が響き、教室内は爆発したような歓声に包まれた。
「うおおおおおお…」
誰も想像しなかった結末に教室内は大いに湧き、祝福の拍手が沸き起こった。ふたりが揃って真っ赤な顔で下を向いている。ここに最下層のカップルが誕生した。
しかし、誰よりもびっくりしたのは教室の端で久保田の「はい」という声を聞いた豪介だった。二人で典子の悪口をあんなに言っていたのに、面食いだった久保田が、牧園ゆかりさんを好きだと言った久保田が、大きな胸が好きだった久保田が…。
『そうか!』
脳天に雷が落ちたような衝撃だ。この前、久保田に典子が本当に好きなのはお前だと伝えた時から久保田は典子と付き合うことを、あの胸と付き合うことを考えていたに違いない。
豪介はいま自分がどんな顔をしているのだろうかと思った、ちょっと余裕のある微笑みができているだろうか、それとも泣き出しそうな顔になっているのだろうか…。豪介は誰にも気づかれないように教室を抜け出した。
同じ時間、職員室では。
1組の井上唯が近藤麻里先生から呼ばれていた。職員室の近藤先生の机の上には数枚の白紙の答案用紙が置かれている。
「どうしたの?」近藤先生が唯に尋ねるが、唯は黙って立っているだけだった。

