僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 銀治郎たちに促され、典子が豪介の隣の椅子に立たされた。クラスメイトはみんな真ん中の二人に注目する。普段は豪介に注目などしないみんなも今日ばかりはテストが終わった開放感もあり興味津々に見ている。しかも二人は半ばカップルになっているという噂が立っているため、普段はいじめだと注意するような人たちも当の本人たちが喜んでいると勘違いしているようで誰も止めようとしない。
 銀治郎が手拍子を添えてこの場を盛り上げる。
「告白、告白、告白…」
 典子が口を開いた。
「やめて、あたし本当に迷惑してるんです。この前もゴンスケ君に言ったのに」
「ゴンスケ君だってよ、ヒューヒュー」二人を取り囲んでいるクラスメイトの中からヤジが飛ぶ。
「やめてください!」
「もうこうなったらはっきり言っちゃって!」と、誰かが言うと典子はキッと睨むような顔になり、覚悟を決めたのか大きく一つ息を吐き出した。みんなもその気配を察して、囃し立てるのをやめる。
 豪介は覚悟した。息が苦しく、立っているのもやっとだった。あまりにも緊張して喉がぺったりと張り付く。きっと典子は言うつもりだ。そして自分は、笑い者になる。
 典子がよく通る声で言った。

「私、ゴンスケ君のことは嫌いです」

 それはみんなにとってあまりにも予期せぬ言葉であった。教室のみんなはどう反応していいのかわからない。てっきり「好きです。付き合い始めました」というのだとばっかり思っていた。銀治郎でさえ反応できなかった。
「私、迷惑してるんです」
 豪介は顔を下に向けたまま静かに椅子から降りた。
 一方の典子は覚悟を決めていた。『こうなったら、もうここで言うしかない。これ以上自分の気持ちを弄ばれるのはゴメンだ』

「私が好きなのは久保田君です」

 3組のみんなは典子が言ったことを理解するのに時間がかかり、息をするのも忘れた。
 しばらくの静寂の後、誰とも言わず、同時に何人もから静かな歓声が漏れた。
「おぉお…」
 すると次の瞬間「久保田、久保田、久保田…」というコールが沸き起こり、銀治郎が久保田を典子の横に連れてきて、さっきまで豪介が立っていた椅子に立たせた。