僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 うまく息ができない。手の震えが大きくなって押さえても止まらない。見ている景色が周りから黒くなり視界が狭まっていく。頭の中が真っ黒になり、ガンガン痛みだした。どうして…どうして…なんで…。

 そして期末テストがはじまった。

 1時間目のテストが終わると牧園ゆかりは井上唯の顔色の悪さが気になった。血の気のひいた真っ白の顔色で、手も微かに震えていた。日頃からあまり顔色のいい方ではなかったが今日の唯は病的だ。
「唯、気分悪いの? 大丈夫」心配したゆかりが声をかける。
「…私、私どうしよう」
 小さな、消え入りそうな声だった。もう一度「唯」と声をかける。だがもう反応はなかった。唯の心に重い重い鉛の蓋がされたようだった。

 6時間目のチャイムが鳴って予定されていた全てのテストが終わった。
 その瞬間、テスト勉強を必死にやっていた者も、それなりにしかしていなかった者も大きな山場を越えた開放感に包まれた。

 2組の教室では、3組の小林美咲がやってきて末松典子を見つけると、「ちょっと来て」と言って典子を連れて行った。

 3組では。
 蔵持銀治郎が立ち上がって「テストが終わったぁ」と喜びを口にし、そして豪介の方を見ると「ゴンスケ、覚えてるだろうな」と言ってニヤリと笑った。
 豪介は突然銀治郎に話しかけられ心臓が苦しくなった。
「何を?」
「何をって、お前の嬉しい発表があるだろう」というと、クラスのみんなもそのことを覚えていたらしく、教室内は「ヒューヒュー」と豪介に対する歓声が沸き起こった。
 銀治郎に腕を取られて豪介は椅子の上に立たされた。豪介は久保田治を見た。久保田は心配そうな、それでいて懇願するような目で豪介を見ている。だが豪介は久保田のことを考えている余裕はもうない。
「嬉しい発表、嬉しい発表、嬉しい発表」と銀治郎が囃立てる。
「違うんだ、典子はね」と、全て正直に話そうとするとそれを辛島優斗が止めた。
「銀治郎、ちょっと待て」
 すると打ち合わせをしていたのだろうタイミングよく、小林美咲が2組から典子を連れてやってきた。
『最悪だぁ…』豪介は血の気がひいた。
「おっいいね、揃いました。さぁ通して、通して」銀治郎が嬉しそうに典子を誘導する。
 典子は椅子に立っている豪介を見て困ったような怒ったような覚悟を決めたような顔になった。