豪介は「俺だって誤解を解きたいんだ」と訴えたが、久保田は「待ってくれ…。待ってくれ…」と言うだけだった。豪介はどうしていいのかわからない。みんなの誤解を解かなければ勘違いされっぱなしになってしまう。かと言って友達である久保田が泣きそうな顔で懇願しているのを無理やり自分のためだけに発表することもできない。豪介は自分が泣きたいような気持ちになった。

７月４日　水曜日　期末テスト
　豪介は最悪の精神状態で期末テストに挑むことになった。
『早く、半年後になればいいのに。半年ぐらいすぎてこのショックが過去のものになったら僕の気持ちも少しは楽になるのに…。そうじゃなかったら、大地震よ起こってくれ…』と願っていたが、時間はゆっくりしか過ぎていかないし、大地震も起きない。そんなことはわかっているのだが、このままテストを受けるのが怖い。テストが終われば発表が待っていた。豪介には気持ちの落ち着かせどころがなかった。

　久保田治は昨日豪介から言われたことで気持ちを乱していた。
『典子が好きなのは俺だった…。典子が俺のことを好きだなんて…』
　どうしたらいい、どうしたらいい…。テストが終わればゴンスケはこの前の発表の続きをすることになるだろう。どうしたらいい、その時自分は一体どうしたらいい…。そのことばかりを考えて、落ち着いてテストを受けられるような状態ではなかった。

　牧園ゆかりはいつもと同じようにテストの準備をしたつもりだったが、今回は告白されたり、ゴンスケから変なことを言われたり、裸の画像が出回ったりして随分ペースを乱されていた。

　末松典子は勉強よりも、心の中の久保田の存在を大きくしていた。
『久保田くんが好き』

　井上唯は、いつも以上に集中して勉強した。唯はテスト前の最後の確認をしようと机の中から参考書を取り出した。すると参考書の上に写真があった。
　ドキン！
　心臓が痛いほど跳ね上がって止まりそうになる。文太に送った写真がここにある。何がどうなっているのか分からない。もう一度参考書を取り出した。写真の下には数枚の紙があった。それは今までの文太とのやりとりが印刷された紙で、そこに『恥ずい』『中学生かよ』『馬鹿じゃねぇの』と書かれていた。唯の血の気がひいた。頭は思考停止に陥った。
「ハァ、ハァ、ハァ…」