僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 銀治郎たち三人は飛び上がらんばかりに喜んだ。クラス全体の視線も豪介に集中する。興味本位の視線、豪介の口から「告白したんだ」という言葉を期待する視線。この瞬間だけは明日から始まる期末テストのことも忘れ、生徒の目に生気が戻る。
「ゴンスケ、お前やるじゃないか、男だな。それで告白したんだな?」と銀治郎が嬉しそうに囃し立て、「待て待て待て、みんなゴンスケの口から聞こうじゃないか」とさらに煽り、銀治郎は豪介の腕を取って椅子の上に立たせた。みんなはますます興味を持って固唾を飲んで豪介に注目し、その言葉を待った。
『ダメだ、否定しなければ』豪介は焦った。否定しなければとんでもないことになってしまう。豪介はあまりの怖さに足が震え始めた。典子が好きなのは久保田だと言わなければ、典子に相談されたんだと言わなければ。自分は典子のことなど何とも思っていなかったと言わなければ。
「あれは違うんだ。あれは本当は、典子が好きなのは」と震える声で言いかけた時にチャイムが鳴った。早く、早く否定しなければ、でも久保田のことはどうする…。豪介が久保田を見ると、なんにも知らない久保田が心配と同情と銀治郎に対する憎悪が入り混じった目で自分を見ていた。
『久保田が、俺を心配している…』
 自分を心配してくれている久保田を巻き込んではいけない。その一瞬の逡巡がタイミングを逸した。次の瞬間、「ガラガラガラ」と教室のドアが開き三島先生が入ってきてしまった。豪介は否定するタイミングを逃し、なすすべもなく立ちつくした。
『しまった、言うべきだった、言って否定しなければいけなかったのに…』
「ゴンスケどうした、何か言いたいことがあるのか」一人立っている豪介を見て三島先生が聞いてきた。だが、豪介は何も喋れない。すると三島先生が「嬉しい発表か、まぁ期末テストが終わってからにしろ」と奇跡的にこの状況に合う言葉を発し、教室内は歓声とともに拍手で盛り上がってしまった。豪介は頭が真っ白になり、「それじゃテストが終わったら」と口走りそのまま席についた。豪介は胃がキュッーと絞られるような痛みを感じた。

 授業が終わると久保田が心配して豪介の元にやってきた。
「ゴンスケ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
 豪介は呑気な久保田の腕を引っ張り教室を出る。