期末テストを前日に控え、２年生の教室では「勉強してる？」「全然してない」と相手を油断させるような会話で溢れていた。
　一方、花田豪介のような本当に勉強していない生徒からすればその会話は茶番としか聞こえなかった。その豪介の元に、向こうからニコニコしながら久保田治がやってきた。
「おはよう」
「あっ、おはよう」
　久保田はどこまで知っているのだろうか、典子から何か話があっただろうか…。劣等感と安心感とが入り混じった言葉にできない気持ちで久保田を見る。
「どうかしたか？」そんな怪訝な顔で見る豪介を不審に思って久保田が聞いてくる。
「いや、別に」
「期末テストの準備してるか？」
「いや」
「俺もだよ」
「なぁ、久保田、お前最近いいことあったか？」
「いや、別にないよ」
「それじゃ、悪いことは？」
「いや、ないよ」
　典子はまだ久保田には何も話していないようだ。
　蔵持銀治郎達三人組が教室に入ってくると、自分の席に着く前に銀治郎が豪介を見つけ、早速からかい出した。
「よぉ、ゴンスケ、典子とはうまくいってるのか？」銀治郎が肩を組み豪介を逃げないようにロックする。銀治郎は身長が高く豪介は低い。銀治郎に肩を組まれたら豪介はそれだけで逆らえないような格下の気分を味わわされる。
　豪介は典子から言われた「変な噂を流さないようにして」という言葉を思い出した。銀治郎に言わなくてはいけない。典子から頼まれたから言うのではなく、これは自分のために言わなくてはいけない。
「なぁ、変な噂流さないでくれよ」
「うへぇ、照れてやんの」
「違うよ」
「大丈夫だって、うまくいくように俺たちがなんとかしてやるから」
「違うんだって」
「大丈夫だってお前達お似合いなんだから」
「違うんだって、典子は」
「おぅ、典子だって、呼び捨てかよ」
「違うんだ、本当は」と言ったところで、銀治郎でも優斗でもないクラスメイトの一人が突然、「ゴンスケこの前の金曜日、典子と二人で帰ってただろう。スーパーの駐車場のところに行くのを見たぜ」と言った。
『見られていた！』体から血の気が引き、手の先が急激に冷えていく。
　銀治郎がすかさず反応する。「本当か？」
「あぁ」
「典子と二人、キョロキョロしながらスーパーの駐車場の奥へ消えて行ったんだ」