蔵持銀治郎と辛島優斗の二人はほとんど勉強をしているそぶりがないが、それでも成績は上の下あたりを行ったり来たりしている。しかも身長はスラリとしていて見た目もいい。二人が並んで校庭を歩けば下級生たちがキャーキャー言い始め、またその声に応えるかのように右手をあげるとさらに黄色い声が大きくなるという学内アイドルとでもいうべき存在だった。特に蔵持銀治郎は地元のテレビ番組で格好いい男子と紹介されたこともあり、他校の女子からも一目置かれている。そして優斗の彼女の小林美咲は上の中でかなりの美人だ。美咲も勉強している感じが全然ないが、地頭がいいのだろう15位以内にはいつも入っている。豪介からするといけ好かない奴らだった。彼らの話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、銀治郎君彼女と別れたって本当?」
「まあね」
「どうして?」
「だって、ヤラせてくれなくてさぁ」
「バッカじゃないの、そればっか。猿!」
 豪介にはまるっきり縁のない世界の話だが、正直羨ましい。豪介は彼らの話を聞かないようにして、昨日のコンビニスタッフの三人の意識に入ったことを考えようとしていた。
『別れただのヤラせてくれないだの、低脳な話に聞き耳を立てている暇なんてないんだよ』
「おい、ゴンスケ」と突然銀治郎から呼ばれた。
「なに?」豪介はビクッとして返事をした。
「お前さ、彼女いるの?」
「い、いないよ」
「好きな女子は?」
「い、いないよ」
「ほら、俺の言った通りじゃん。やっぱりいないって言った。100円ね」銀治郎が優斗から100円もらっている。
『クッソー、やっぱりこいつらはいけ好かない奴らだ』
「ねぇ、本当に好きな子いないの?」美咲が聞いてくる。
「い、いないよ」
「誰にも言わないからさ、教えなさいよ」
「いないってば」
「私がうまくとりなしてあげるから」
『こんな時に、牧園ゆかりさんと言えたらどんなに気持ちがいいだろう…』
「ゴンスケに似合うとしたら」と銀治郎が言い出した。
『僕に似合う女子…。それは誰だ?』
 身長も低いし、顔だってよくないことは知っている。勉強は至って普通、もしくはそれ以下だ。だが、そんな自分に似合う女子というのは一体誰だ? いけすかない奴らだが銀次郎がどのあたりの女子を言うのか豪介は気になった。