僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

【無理】この一言だった。大悟の初めての失恋だった。 
 大悟が壁の写真を見る。あのゴンスケと典子だって付き合うと言っている。自分だって、自分だって…。

 午後になり、大悟の家に鈴木道治がやってきた。
「大悟、一緒に勉強しようぜ」
 二人は期末テストの対策を考えながら猛勉強をしていく。1時間が経ち、2時間が経つと「うわぁ、疲れた、ちょっと休憩」と言って道治が伸びた。
「そうだね、ちょっと休憩しようか…」
「話そうかなぁ、どうしようかなぁ」
「何?」
「聞きたい?」
「いいよ、別に」
「いや、どうしようかなぁ、話そうかなぁ」
「なんだよ?」
「聞きたい?」
「いいよ」
「いやぁ、どうしようかなぁ」
「聞きたいよ、聞きたい」
「俺さぁ、もしかしたら、もしかしたらだよ、本当にもしかしたらだからね」
「なんだよ?」
「俺さぁ、女の子と付き合えるかもしれないんだ」
 道治の突然の告白に大悟は驚いた。
「えっ!」
「いや、まだそうと決まったわけじゃないけどね」
「本当に?」
「いや、やっぱわからないなぁ、うん分からない」
「何?」
「今のは聞かなかったことにして。うん、何もない」
 道治はそう言うとこの話を切り上げ、「そうだ、今日俺ラーメン持ってきたから、一緒に食おうぜ」と言って立ち上がった。そして「お湯沸かすよ」と言って台所に行ってしまった。
 大悟は嬉しそうな道治の顔を見て冗談で言っているのではないと知った。もしかしたら道治にも彼女ができるかもしれない。自分だけが取り残されているような気がしてきた。
 その時、道治の携帯にメッセージが入った。チラリと見えたメッセージのお知らせはどうも女性っぽかった。見てはいけないと思いながら勝手知ったる道治の暗証番号を入力する。

 花田豪介が手を止め時計をみると時刻は夜7時を回っていた。夕食のために階段を降りていく。
「勉強頑張ってるのね」と母親は上機嫌だ。
「まあね」
 食事を終えるとさすがにちょっとは勉強した方がいいかもしれないと思い、まずは気分転換になればとお風呂に入ることにした。背後から「ゆっくりね。あとでお部屋にフルーツ運んでおくからね、お風呂出たら食べなさい」という機嫌のいい母親の声が聞こえる。