家に帰ってきた豪介はさっさと食事を済ませ風呂に入り自分の部屋のベッドに入って横になる。夕方目を合わせ紐付けしておいた三人の目と耳を共有できるか一刻も早く確認したかった。
　心静かに目を瞑る。なるべく他のことは考えないように、大原純の顔を思い出し、意識を集中させていく。寝るときに繋がりたい相手の顔を思い浮かべながら寝るとその人と繋がることができる。
『大原純…、大原純…、大原純…』

　暗闇の向こうに光の点が現れた。その光が徐々に大きくなって向こうからやってくる。ふわっと光に包まれたかと思うと、周りの景色がはっきり見え始めた。
　部屋の中だろう、ずっと携帯を操作して数人の女の子と連絡を取り合っていた。ひと段落すると鏡を見て自分の顔を眺めている。ちょっと顔がいい男にありがちなバカなナルシストだ。だがおかげで大原純だと確認できた。よしっ。いったん大原純との繋がりを切り、次にそのまま徳永伸也を思い浮かべる。
　すぐに暗闇の中に光が見え始めた。
　テレビ画面に集中し、オンラインゲームをやり続けていた。視線が外れない。が、かすかに見える部屋の様子が汚い。対戦が終わった時に一瞬暗くなる画面に映った顔が徳永伸也だった。よしっ。徳永伸也との繋がりを切り、最後に有田律子を思い浮かべる。
　向こうから光がやってきた。
　鏡に向かって顔のパックを剥がすところだった。白いパックを剥がしていくとそこから地味なキツネ顔の有田律子の顔が現れた。よしっ。
　三人と繋がり、目と耳を共有できたことに満足して、今日のところはこれで切り上げ、もう誰も意識せずに自然な眠りに身を任せる。豪介は、自分の気持ちの中に生まれた感覚を心地よく味わっていた。
『始まったな…』

６月５日　火曜日
　朝、花田豪介がいつものように登校し３組の扉を開けると、教室の中心に夏服の白のスクールシャツをだらしなく着た蔵持銀治郎と辛島優斗がいた。優斗の隣には付き合っている彼女の小林美咲が口にリップでもつけているのか艶やかな感じで寄り添っている。三人は自分の机ではない他人の机に腰掛けなにやら話をしているようだった。三人の醸し出している雰囲気を色で例えるならピンク色だ。豪介はその三人を大きく避けて自分の席へと向かう。