僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

「大丈夫、ちゃんと怒ったから。もう二度としないと思う」
「怒ったって、根に持ってまたやるんじゃないの?」
「その時はまた怒鳴りつけてやるからいいの」
「ねぇ、誰よ?」
「男子でしょ?」
「名前知っちゃうと、そいつから逆恨みされるかもよ」
「えっ、嘘ー、怖ぁ!」
「私みたいに変態画像作られて、ばら撒かれちゃうよ」
「じゃあもういい、聞かない」
 嫌がらせをされた本人であるゆかりがすでにケリをつけたことを知り、さらに気持ち的に吹っ切れていることが周りの友達を安心させた。
「ゆかりは強いわよね、私だったらどうしていいかわからないもん」
「そうよ。これって1組だけじゃないかもよ」
「2組も3組も送られた男子いるって」
「なんで知ってるの?」
「えっ!」
「あっ、もしかして」
「ちょっと誰よ?」
「いつから?」
 と、話はどんどんそれて本人そっちのけで盛り上がって行く。
 牧園ゆかりの裸の加工写真はその出来の悪さから誰かの悪戯だとすぐにわかり、受け取った人たちもそんなに多くなく、その人たちもこのまま携帯に保存しておいたら何かあった時に問題になりそうなこともわかっていてどんどん消去されていった。

6月27日 水曜日
 3組の蔵持銀治郎が2組で〈みんな聞いてくれ、ゴンスケが典子のことを好きだってよ〉と言った日からおよそ二週間が経った。
「最下層同士のカップル誕生か?」という話題は『高校生活の醍醐味は誰が誰と付き合うかに集約されている』と信じて疑わない一部の生徒にとって最高のネタになった。だがその後、思ったような面白い進展がないことにそんな生徒たちは痺れを切らした。普段は絶対に末松典子に話しかけないような男子生徒が典子を囲んだ。
「典子、あれからどうなった?」
「告白したのか?」
「俺たち待ちくたびれたよ」
「そうだよ、どうなってるんだよ?」
「もう待てないよ」
「心配してんだぜ」
 典子はこの人たちは自分の友達だったっけと思うが、無視するとまたどんな噂を立てられるかわかったものではないので、適当に返事をしていなすしかなかった。典子の本来の友達はすっかり弾き飛ばされ、遠目で典子を見守ることしかできない。典子は誰に頼ることなく自分で乗り越えなければならないと悟った。
「そんなんじゃないのよ」
「お似合いだって」
「絶対にうまくいくって」
「早く告白しろよ」