豪介はすぐさま視線をそらす。何気なさを装って入り口近くまで移動し漫画雑誌を立ち読みする。雑誌を元に戻してそっーと移動し商品を見るそぶりで他の店員を探る。モップがけをしている店員がいた。小太りでジーンズ姿がだらしなく、鈍臭そうなオタクという感じだ。そっと近寄りカップラーメンを眺めながら胸元の名札を拝見する。「徳永伸也」こいつもシフト表に載っていた奴だ。顔を確認する。いかにも金がなさそうな顔をしている。
『こいつかもしれない』
 こっちを見ろ、こっちを見ろ、「ウゥン」と咳払いをする。徳永伸也が顔をあげた。
『目があった。よしっ!』
 豪介はすぐに視線をそらしてまた移動する。
 急に従業員以外立ち入り禁止の扉が開いて女性の店員が二人出てきた。急なことでドキッとしたが、慌てずに名札を見る。一人はカタカナで「ヨウ・シァオメイ」とある。この子は留学生だろう、除外する。
 もう一人の女性はカウンターに入った。豪介は弁当コーナーに行くふりをしてカウンターの前を横切り、中に入った女性の名札を確認した。「有田律子」だ。この名前もシフト表にあった。キツネ目の神経質そうな女子だ。よくテレビに出てくる犯罪者の女がこんな感じの顔だ。
『こいつかもしれない』
 豪介は有田律子と目を合わせるためにじっと顔を見ていた。豪介の心臓が高鳴る。有田律子がその視線に気がついたのか、手元の作業を止めてこっちをみた。
『目があった。よしっ!』
 豪介は視線を外して弁当を選ぶそぶりをする。
『ヤッタァ! 上出来だ、ちょうど三人ともシフトに入ってるなんて運がいい』
 豪介が振り返ると有田律子がこちらを見ていた。何か自分の行動を監視されているような気になった。別にこちらの意図に気がつくはずはない。それでも有田律子の視線は気になった。万引きするとでも思われているのかもしれない。その場を離れお菓子売り場に行ってそっとカウンターを見る。有田律子はまだ自分を見ていた。豪介は欲しいものがなかったという演技をしながら店を出る。
「ふぅ…」
 店を出ると豪介は大きく息を吐いた。緊張で手にかいた汗をズボンにこすりつけて拭き取る。たったこれだけのことなのに豪介はものすごく大胆な大きな仕事を成し遂げたかのように疲れてしまった。まだ幾分ドキドキしている。
『とりあえず、帰ったら寝ることにしよう』
 豪介は自転車に乗って家に向かった。