僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 だが、豪介はいくら頑張っても推薦をもらえるような成績には程遠く一般入試で行けるところに行けばいいや、ダメなら専門学校だ、としか考えていない。そんな考えなので先生の話が退屈で退屈で、気を抜いていたらスゥーと意識が後ろに引っ張られて行く。

 向こうから暗い光がやってくる。見たことのある景色だ。薄暗いコンサート会場、いや講堂だ…。
『なんだ、ここじゃないか』
 ということは…、『この学年の生徒と繋がったということか?』それにしてはアングルが違う。どうも一番後ろにいるようだ。
『先生だ!』この見え方は先生と繋がった。
 すると、視線が動き携帯の画面を見はじめた。袖口のスーツの模様が紺色の地に茶色のラインのスーツだ。ということは男性だ。
『さすが先生のスーツ、地味だ』
 何やらメッセージのやりとりをしている。
 【今週の土曜日大丈夫です】
【よかった、それじゃ映画見て、食事に行きましょう】
 【わぁい、嬉しい】
【僕も嬉しい。楽しみだね】
 【あれもその時用意していきますね】
【いつもありがとう】
 【てへぺろ】
【てへぺろ】
 なんだこの時代錯誤の【てへぺろ】は。ばかじゃないのか。どうやら相手は女性のようだが、今時メッセージの最後をてへぺろで終了するか? 気持ち悪いぞ。会話を終了するときに視線が画面の上部に行き一瞬名前が見えた。
「まりちゃん」
 先生が携帯をポケットの中にしまい、視線が動いた。動いた先には1組の近藤先生がいた。こちらを見ている。自分と繋がったこの先生は近藤先生に見つかったことを気にしている様子だ。それはそうだ、仮にも授業中に携帯を見ていてはバツが悪い。それをクソ真面目な近藤先生に見つかったのだ、さぁ、どうする。どうやってごまかすんだ。
 近藤先生がこちら見て意味深な目配せをした。
 どう言ったらいいのだろう、ピンク…そう、色に例えるなら非難する怒気を含んだ赤ではなく、何か秘め事を隠すようなピンクのような色合いの目配せだった。そういえば近藤先生は麻里。つまり「まり」だ、でも、でも…。自分と繋がっているこの先生もその目配せに答える動きをした。ほんの少し小首を傾げたような視界の傾き方だ。
『このメッセージのまりちゃんは近藤先生だ!』
 あまりにも衝撃的だ。近藤先生が【てへぺろ】って。しかも自分とつながっているこの先生とデートの約束をしている。一体、誰だ?