僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 学校終わり、山形大悟と鈴木道治はいつものように大悟の部屋にいた。二人は学校でも一緒、塾も一緒、休みの日にも一緒にいる。大悟がカップラーメンを持ってきて、道治がありがとうと言って二人で食べ始める。ラーメンを食べる手を止めて道治が大悟に聞いた。
「典子が好きな人の相談してるみたいでさぁ」
「それって、ゴンスケのこと?」
「当たり前じゃん」
「芽衣ちゃんとコソコソ話してるのが聞こえちゃんたんだけどさぁ、すごいこと話してるんだよあの二人。芽衣ちゃんが〈私の彼すぐに体に夢中になるんだよ〉とかなんとか言っちゃってさぁ、〈典子もその胸だったらすぐよ…〉なんて話してるんだぜ、俺びっくりしちゃったよ。きっと芽衣ちゃんなんてエッチしまくってるんだろうなぁ」そこまで言うと道治は「あぁあ」とため息をついた。
「なぁ大悟、ゴンスケと典子ってもう付き合い始めたのかなぁ?」
「どうして?」
「だって一応両想いなんだろう。やっぱりちょっと羨ましいよなぁ」
「…あぁ」
「俺ほんとはさぁ、好きな子いるんだよ」
「そうなの」
「あぁ」
「誰だよ?」
「誰にも言わない」
「言わないよ」
「…井上唯」
「! なんで?」
「なんでって」
「だって、全然違うじゃん、胸が大きいとか可愛いとか」
「だからそれとこれとは違うんだよ。なんかさ一生懸命勉強してて頭いいじゃん。一緒に勉強したら教えてくれたりしてなんかそういうのっていいじゃん」
「もしかして告るの?」
「そんなのできないよ。できないけどさぁ…。あぁあ」
「…」
「俺なんか、相手にしてくれないんだろうなぁ…」
 そういうと道治は遠くを見つめた。

6月20日 水曜日
『徳永伸也…、徳永伸也…、徳永伸也…』

 光を感じて意識がはっきりしてくると見ている景色がコンビニの中であることに気がついた。チラチラ見えるこの手の感じや、汚れたジーパンは見覚えがある。顔を見るまでもない、徳永伸也と繋がったのだと確信する。視界の中には大原純もいる。
 突然大原の「ヤベェ!」という声がした。そのまま足音が近くまで来ると、「徳永、お前金持ってねぇか?」話しかけてきた。
「ないよ」
「五千円でいいんだけど」
「ないよ」
「頼むよ、女の子の誕生日プレゼントのこと忘れてて手持ちがないんだよ。な、頼む」
「頼むって言われても、ないものはないよ」
「なんだよ、しけたやつ」