僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

 【何が?】
【コムギのメッセージがなくて】
 【本当いうと、私も寂しかった】
【本当? 素直じゃん】
 【ばか】
【今からお風呂に入るよ】
 【文太君が入るのなら私も今のうちに入る】
【どこから体洗うの?】
 【バカね。決まってるじゃない大きな胸よ】
【わっほーい!】
 【変なこと想像してるでしょう】
【想像しまくり】
【お風呂から出たらまたメッセージ送るね】
 【うん】

6月17日 日曜日
 梅雨の中休みの天気のいい日曜日の昼下がり、花田豪介は家族で昼ごはんを食べ終わると自分の部屋に戻るために立ち上がった。すると母親が、「あんた、まさか昼寝するつもり?」と聞いてきた。
「いや、部屋で勉強するんだよ」と答える。
「ねぇ豪介、あんた最近よく寝てるけどちゃんと勉強してるの?」
「してるよ」
「夜中に起きて勉強してるんだろ?」と父親が助け舟を出してくれる。ところが母親が「それが、夜中も寝てるのよ」とさすがに母親というのは父親ほど鈍感ではないらしい。
「お前大丈夫なのか?」と母親の話を聞いて父親まで心配してくる。
「大丈夫だよ」と、言ってみるが、何が大丈夫なのかは豪介にもわからない。
「もう、あんまり寝るもんだから、この間だって、いい夢みたって上機嫌になっちゃって」
「そうなのか?」
「ちょっとは勉強しなさいよ、大学行くんでしょう、行かないのならいいけど」
「うるさいなぁ。とにかく勉強するから」と言ってその場を逃げた。
 母親とは敏感なものだ、静かな部屋でも勉強しているのか、寝ているのかちゃんと区別ができている。しかも、不思議なもので、寝ずに勉強していると、「体が資本なんだからちゃんと寝なさい」というし、勉強せずに寝ていると「寝てばっかりいないでちょっとは勉強しなさい」という。子どもを否定することが親の役目だと思っているのだろうか。現に今だって「勉強するから」と言った言葉に対して「たまには外に出て太陽を浴びたら」と言われた。だが親がなんと言おうと今の自分は止められない。
『牧園さんのために俺は寝るのだ!』
 今日のターゲットは大原純だと決めて、目を閉じる。
『大原純…、大原純…、大原純…』